矢野慶一 CO2/N2分離のためのAFX型ゼオライト膜の開発 姫野修司 小松俊哉 地球温暖化問題を背景にCOP21ではパリ協定が採択され、気候変動の脅威に対する世界全体での対応を強化するために、平均気温の上昇を抑制するための努力を追求することに言及した。世界のエネルギー生産の大半を占めるのは火力発電所であり、石炭由来の燃焼排ガスからの二酸化炭素回収は温室効果ガス削減に大きく貢献できる。燃焼排ガス中の主な成分は二酸化炭素(CO2)、窒素(N2)であり、これらを分離回収する必要がある。現在は主に化学吸収法や固体吸収法が用いられているが、CO2回収時のエネルギー消費量が多いため精製時のエネルギー効率を上昇させる技術が求められている。 そこで本研究は省エネルギー・省コストで分離が可能な膜分離法によるCO2/N2分離系の構築を目的としてゼオライト膜の開発を行なった。本研究で取り扱うAFX型ゼオライトは、0.34nm x 0.36nmの細孔を有する酸素8員環ゼオライトでありCO2 (分子径:0.33nm)とN2(分子径:0.36nm)の中間の細孔径を持つため、分子ふるいによる気体透過の選択性で分離が可能である。 本研究ではゼオライト転換法によってAFX型ゼオライト結晶を合成した。熱重量測定および細孔解析から、細孔に内包された構造規定剤の分解温度は約400度であり、700度の熱焼成、200度のオゾン焼成によってほとんどの構造規定剤が分解され、細孔が開放されることが明らかとなった。 また、ゼオライト転換法でAFX型ゼオライト膜を合成し、構造規定剤の除去方法を検討した結果、200度の熱で膜にクラックや粒界の拡張といった熱応力とみられる損傷を受けることが判明した。さらに温度を下げた構造規定剤の除去を検討し、80℃のオゾン焼成によって分子ふるいによるCO2の選択的な透過が示されたものの、ゼオライト細孔ではない結晶粒界からのN2の透過も起こっていることが示唆された。 細孔に構造規定剤が内包されたAFX型ゼオライト結晶の熱膨張を分析するために25度~800度までのXRD測定を行い、100度~400度の低温環境下で結晶格子間隔に歪みが生じることが確認された。さらなる分離性能の向上のためには熱負荷を低減し、粒界の拡張を抑制した構造規定剤の除去方法を確立する必要がある。