飯塚佳佑 下水熱を活かした高品質わさびの循環栽培技術の開発 姫野修司 下水処理場では,安定かつ豊富に下水が流入することから近年,地域の熱供給地点として期待されている.下水熱の利用事例は都市部の空調利用が主であり,地方では熱需要家が少ないことから多くが未利用となっている.そこで本研究では地方の一次産業である農業の熱需要に着目し,植物栽培を実施した.栽培対象は冷涼な湧水や渓流水が必要かつ栽培地点が偏在するわさびとした.下水からの採熱は,処理後の放流水が集水する塩素混和池にコイル式熱交換器を浸漬させて行い,ヒートポンプを用いて夏期は7 [℃],冬期は40 [℃]の冷温水を製造した.製造した冷温水はわさび栽培水の冷却・加温に利用し12~14 [℃]に調整した後,0.15[L/min・苗]で供給した.栽培水は再び冷却・加温することで栽培水を排水しない循環栽培とした. 下水熱回収結果は,冷熱で1日平均放流水温度26.3 [℃]のとき最大6.5 [GJ/日],温熱で1日平均放流水温度17.4 [℃]で最大4.3 [GJ/日]を回収した.また,塩素混和池から得られる回収熱量を西川浄化センターの放流水量23,000 [m3/日],熱交換器ユニットの設置数81個,総熱交換面積1620 [m2]より推算し,回収可能熱量は冷熱で0.049 [W/m3・m2],温熱で0.049 [W/m3・m2]となり水量,熱交換面積あたりの原単位を取得した.わさび栽培では省エネルギーでの栽培を目的とし,培地土壌へ断熱材を敷設することで必要な熱量が削減可能かを検証した.断熱材がない2019年との比較を行った結果,栽培面積あたりの消費電力は232 [kWh/m2・年],2020年は190 [kWh/m2・年]となり22%の削減効果を確認した.一方,栽培したわさびを評価するため2020年9月中旬より生育期間を終えた正緑を収穫した結果,栽培面積あたりの収率は1.8 [kg/m2]となった.わさびに含有する辛味成分であるアリルイソチオシアネートの分析では本研究わさび1.4 [mg/g-dry],市場のわさび1.3 [mg/g-dry]となり同様な含有量であった.続いて,わさび農家の方より,色味や形状,食味をした感想の教示を依頼した結果,ともに高評価を受け市場に流通するわさびと同価値の品質を確保した.最後に,実験で取得した消費電力量や収穫量の収率から下水熱によるわさび栽培においての事業採算性を評価した.また,栽培に要するエネルギー生産を空冷チラーで実施したな場合の支出を比較した.結果,下水を熱源とした場合,電力量を47%削減したことから下水熱利用の省エネ効果が明らかとなった.事業採算性では,年間にかかる費用を計上し,収益が支出の54%となり,投資回収が困難であることが示唆された.