松本拓未 ヤンゴン市内の地盤増幅率の推定 池田隆明 本研究が対象としているミャンマー連邦共和国は,東南アジアのインドシナ半島西部に位置する国土約378,500km2,人口約5,000万人の国である.旧首都にあたるヤンゴンは人口約736万人を抱える国内最大の経済都市であり,高層ビルの建設や鉄道の整備など都市開発が著しく進んでいる.また,ミャンマーは地震やサイクロン,洪水などの自然災害が多く,その中でも近年は大規模地震の発生確率が高まっているとされる.ミャンマーはプレート境界部に位置し,国土の中央には活断層も縦断していることで,非常に高い地震リスクを抱えているが,建設基準が存在せず耐震設計が義務づけられていないなど地震対策が不十分であるのが現状である.地震対策の強化に向けて,同じ地震大国である日本の支援は必要不可欠であるといえる. 地震被害には,地震の大きさや地盤の特性,構造物の強度など様々な要因が関係するが,本研究は地盤の特性に着目することで,最大都市であるヤンゴンの地盤の脆弱性を評価した.地震リスクの軽減・災害対策意識の軽減を目的に,ヤンゴン市内の568区域において最大速度の地盤増幅率を推定し,推定値によって色分けした地盤増幅率マップを作成することで区域ごとの脆弱性の違いを表現した.また,本研究では次の3つの方法によって地盤増幅率を推定した.@東京都地域危険度測定調査の地盤分類を利用した推定,A常時微動観測を利用した推定,Bボーリングデータを利用した推定.目的や役割が異なる@〜Bの推定を順に進めていき,最終的に最も推定精度が高い1つの地盤増幅率マップを作成した.さらに,微地形を利用して推定精度を確認し,増幅率が大きいエリアの地形的な特徴も捉えた. 最終的な地盤増幅率マップは推定方法AとBの結果を用いて作成した.常時微動観測とボーリング調査の結果を利用することで,ヤンゴン市内の地盤特性を反映した地盤増幅率を推定することが出来た.140地点の常時微動観測結果から求められた卓越振動数は1.0〜3.0Hzの範囲であり,日本の基準から考えてもヤンゴン市内の地盤は比較的柔らかいということが分かった.作成した地盤増幅率図によるとヤンゴン市内はエリアによって脆弱性が大きく異なり,それは地質年代や標高といった条件に依存する可能性が考えられた.本研究で作成した地盤増幅率図はヤンゴン市内の脆弱性を明瞭に表しており,構造物の耐震性評価や今後の都市開発に有効に活用できるのではないかと思っている.