根本 峻 2016年熊本地震での火砕流堆積地盤の地震時挙動の検討 池田 隆明 2016年4月14日21時26分に熊本地域で発生した地震(Mj6.5)以降,熊本県から大分県にかけて発生した熊本地震によって,構造物や地盤に様々な被害が報告された.被害が発生した地域は,阿蘇山の噴火によって生成された火砕流堆積地盤に覆われており,被害原因の多くはこの地盤が影響していると考えられている. 熊本市域では上水を100%地下水でまかなっており、この地震により、一時、取水を行っている常用井戸96本全てにおいて濁りが発生し、断水の被害が生じた。また、熊本市域東部に位置している秋田水源地、沼山津水源地(以下、水源地)の被害は特に甚大であり,地震後に地下水を汲み上げるポンプ建屋が杭基礎構造であるにも関わらず、最大でおよそ2°の傾きが生じる被害が報告された。既往の研究ではポンプ建屋の特徴的な構造形式より,傾きは杭基礎が支持されている深さ20mの地点にある支持層以深の火砕流堆積地盤の圧縮・沈下が原因と指摘されている. 熊本地方は南海トラフ沿いの大地震が発生した際に震度5強から6弱程度の強い地震動が生じると考えられており,地震時に水源地が再び同じような被害が生じる可能性は否定できない.また,日本列島の中央部には火山が多く存在し,国土の大部分は火山灰地盤に覆われてため,火砕流堆積地盤が地震被害に及ぼす影響を検討することは,今後の地震時リスクを低減する為に重要である. 本研究ではこの火砕流堆積地盤の圧縮・沈下の原因を明らかにすることを最終目的とし,被害地域の地盤の地震時挙動を地震応答解析より明らかにした.具体的に本論文では1)2016年熊本地震の概要.2)秋田水源地及び沼山津水源地の被害状況.3)地盤の地震応答解析(解析手法の設定と地盤のモデル化).4)入力地震動の設定.5)地震時挙動の検討をそれぞれ行った.被害地域では地震応答解析のパラメータに直結する地盤調査結果が得られていないため,既往の地盤調査結果,近傍の地盤調査結果,同じ火砕流堆積地盤で得られた試験結果等を収集し,水源地で実施された2本のボーリング調査結果を適切な地盤モデルにした.入力波地震動はKiK-net益城の前震と本震を引き上げて,解析モデルに利用した.地震応答解析の結果明らかになったことは以下の3点である.1) 前震本震共に支持層のある深さ20mよりも深いところで,1%を超える大きなひずみが発生していた.2) 前震と本震の地表部分の地震時挙動の比較では,変位,速度の最大値では本震,加速度の最大値では前震の方が大きくなっていた.2地点の地盤モデルの地震時挙動の比較では地表面の加速度,速度,変位の時刻歴波形には大きな差は見られなかった.