Batkhuyag Baasanjargal 鋼桁のせん断耐荷力評価 指導教員 宮下 剛  許容応力度設計法は,構造物の設計法として長年使用され,工学的判断も考慮した伝統的手法であった.しかし,安全率の内訳が明確でないなど,この手法に内在する欠点を除去するため,限界状態設計法が提案され,1950年ころからヨーロッパを中心に研究が進められてきた.世界的な趨勢はすでに限界状態設計法に移行しているため,日本の道路橋に関する設計規定も安全率をきめ細やかに設定でき,合理的な設計を可能とする限界状態設計法へと2017年に移行した.  現在,日本における橋や高架の道路等に関する技術基準である道路橋示方書では,限界状態の設定が必要であり,これには耐荷力を適切に評価することが必要である.せん断耐荷力評価に関する既往の研究としてBasler式がある.プレートガーダーにおいてせん断力により斜め張力場作用が生じ,腹板が断座屈した後,圧縮フランジの局部座屈あるいは桁の横座屈によって耐荷力が減少するまで,強度の上昇が期待できる後座屈強度を持つ.Basler式は弾性座屈と後座屈の和として表される.  本研究では,非線形有限要素法によるパラメータ解析を行い,Basler式が成立するための前提条件を明確にすることを目的とする.本研究を通じて,各部材の寄与が明確となり,新設橋の限界状態の設定のみならず既設橋を補修・補強するうえで,有益なバックデータを与えることが期待される.  米国の設計示方書(AASHTO)では,内部パネルにBasler式を適用するが,それに対して,端部パネルでは安全側の評価として後座屈強度を見ていない.この理由として,支点上補剛材では,斜張力場の水平力を十分に負担できないことが挙げられる.一方,本研究では,桁端部ウェブパネルおよび内部パネルにおいてFEM解析を行い,Basler式がいずれにしても有効であることを確認した.  今回のパラメータ解析結果から,斜め張力場作用が発生しないことにより腹板が後座屈強度を受け持てない状態になっていることがせん断耐荷力の低下する原因となっていることが分かる.上フランジの剛度が下がると斜め張力場作用が発生しないことから,腹板は後座屈強度を持たない状態になる.したがって,せん断耐荷力が下がることにより,上フランジはせん断耐荷力に大きな影響を及ぼすことが分かる.次に影響が大きいのは支点上補剛材である.支点上に2つの補剛材をつけることで支点上でも斜張力場の水平力を十分に負担できることが分かる.下フランジおよび載荷点補剛材のせん断耐荷力に与える影響は僅かな程度であることが分かる.下フランジの剛度を下げたにも関わらず,斜め張力場作用が発生する.