中村 洋介 鋼製煙突のCFRP補強 宮下 剛 構造物の耐震設計法は,地震被害をもとに発展してきた.煙突構造物でも状況は同様であり,耐震基準の見直しを受け,耐震性が不足している鋼製煙突が存在する.また,鋼製煙突では,鋼材の経年劣化は避けられず,適切な点検と補修も必要となる.鋼製煙突に対する従来の補修・補強では,鋼板をボルトや溶接により添接する当板工法が用いられる.しかし,これらの工法は,施工が煩雑であり,母体に対してボルト孔などの断面欠損や熱影響の懸念,死荷重の増加などの問題点がある.特に鋼製煙突では,半径に対して板厚が小さい(径厚比が大きい)ため,自重が小さく,基礎もそれに対応するように設計されている.よって,従来の当て板工法で補強すると,死荷重の大幅な増加により,基礎に影響を及ぼす場合がある. 本研究では,既設鋼製煙突の耐震性向上を主目的として,軽量かつ簡便な施工を可能とする炭素繊維シート接着工法による補強効果の検討を行う.具体的には,実鋼製煙突を模擬した鋼製円管に炭素繊維シート補強を施し,水平荷重による正負交番載荷を行い,耐荷力や変形性能などの基礎データを取得する.試験は,無補強の供試体,炭素繊維シート補強(パテの有無)を施した供試体の計3ケースの供試体で試験を実施し,炭素繊維シートの補強効果を検討する.また,炭素繊維シートは,2種類用いて,鋼管軸方向,鋼管周方向のそれぞれの補強効果について検討する. 正負交番載荷試験の結果,測定された最大荷重から,炭素繊維シート補強を施した2供試体で,炭素繊維シート接着による補強効果が確認された.また,耐震性能の指標であるエネルギー吸収能は,炭素繊維シート補強をすることで向上し,基部の破壊状況からみても面外変形の量は小さく抑えられ,エネルギ−吸収量も大きくなることがわかった.さらに,各供試体の荷重−ひずみ関係から炭素繊維シート補強を施すことで応力低減効果と拘束効果が確認された.