高橋 誠汰 劣化したRC床版を有する鋼2主桁橋の構造特性 宮下 剛 道路橋示方書(以下,道示)が2017年7月に改定され,橋梁の設計体系が許容応力度設計法から部分係数設計フォーマットにもとづく,限界状態設計法へと移行した.ここでは,橋梁を構成する各部材の限界状態のみならず,橋梁の構造システムとしての限界状態の定義も与えられている.これは,構造システムとしての冗長性(リダンダンシー)を期待するものであるが,部材の限界状態と同様に,限界状態の明確化とその定量評価が行われていない. 道示の改定を受け,部材の限界状態の設定に向けた研究が,実験を中心として数多く行われている.一方,構造システムの限界状態に関する研究は,解析的な検討がいくつかあるものの,実験による検討はほとんど無い.そこで,本研究では,構造システムの限界状態の設定に資する研究として,実橋の1/2スケールの合成2主桁試験体を製作し,載荷試験を行う. また,わが国では,少子高齢化が進む中,限られた予算下で,急速に増加する高齢化橋梁の維持管理が求められている.そこで,橋梁の維持管理に関する知見を得ることも目的として,製作を行う合成2主桁試験体のRC床版には,事前に疲労損傷を与えることとする.具体的には,三点曲げ載荷試験に先立って,RC床版の定点移動疲労載荷試験を行い,床版の損傷程度を実験パラメータとする.一体は比較的交通量が多い既設橋で多くみられる床版下面の亀甲状のひび割れを再現し,もう一体は定点移動疲労載荷試験の後,さらに押し抜きせん断を実施する. 載荷試験の結果,両試験体とも,全塑性モーメントを超え,RC床版の圧壊で終局に至った.また,最大荷重ならびに荷重−鉛直変位関係といった構造特性もおおむね同様となる結果が得られた.これは,使用性に対しては注意が必要であるものの,高齢化橋梁の維持管理のみならず,大規模地震が発生した後の緊急車両の走行に関しても有益な知見が得られたと言える.ただし,床版の損傷状態と載荷パターンが与える影響の定量評価は今後の課題である. 本研究を通じて,構造システムとしての限界状態を設定するためには,1主桁に対する冗長性を評価する必要がある.これには,既往の研究成果の活用ならびに解析的検討が必要である.