籔田 大晴 車内振動加速度を用いた伸縮装置の状態に関する基礎的研究 宮木康幸 我が国を初めとして老朽化に起因するインフラの損傷が多く発生しており,構造物の維持管理の重要性が増してきている.73万橋を超える道路橋もその一つであり,2033年には全体の約63%が建設後50年を経過する.現在の維持管理は目視による定期点検が主であり,点検者の知識不足や見落としなど点検の効率化という課題が挙がっている. また,道路橋における伸縮装置は,その老朽化によって漏水などを引き起こし,道路橋老朽化の大きな起因の一つとなっている. そこで,本研究では,伸縮装置の段差や異常遊間などの状態を定量的且つ簡易的に把握することを目指し,伸縮装置を車両が通過する際に発生する車内振動加速度と伸縮装置の状態との関連性を検証し,点検業務技術の一つを提案することを目的とした.なお,車内振動加速度は,簡易性を重視して,スマートフォンによるDRIMSシステム(サンプリング周波数100Hz)を用いて計測した. 交通規制を行うことなく,伸縮装置の状態を正確に把握することが困難であるため,実際の橋梁における車内振動加速度の計測に加え,長生橋の伸縮装置を模擬したアクリル板を使用した実験を行った.得られた計測結果は実効値,最大全振幅,波形の三項目と周波数分析を用いて評価を行い,関連性の検証を行った. 実験結果からは,伸縮装置の種類の違いによる実効値,最大全振幅,波形の明確な違いは現れなかった.しかし,個々の伸縮装置によって波形,周波数スペクトルに明確な違いが確認できることから,車内振動加速度は伸縮装置の状態による影響が大きいことが分かった.また,長生橋の段差と模型実験の結果から,振動加速度と遊間には余り相関がみられなかったが,振動加速度の実効値と段差には強い相関がみられ,波形,周波数スペクトルの相違は段差の影響が強いことが判明した.以上の結果から,車内振動加速度から伸縮装置の種類を判別することは難しいが,車内振動加速度を定期的に測定することで段差や状態の変化を把握できることが分かった. 今後は,車内振動加速度の実効値,波形,周波数スペクトルの変化から伸縮装置の状態を判別する基準の作成が必要であり,より詳細な段差実験に加え,伸縮装置の劣化に合わした車中振動加速度の経時的な計測が必要となる.