衛藤 修平 実務利用に向けた城郭石垣の2次元個別要素法モデル 大塚 悟 日本各地には,文化遺産として価値の高い城郭が点在し,それらの多くは城郭石垣によって構成されている.しかし,それらは構築後400年程度経過していることから,老朽化が著しく,孕み出し等の変状が目視で確認されるものも多い.さらに,災害大国の日本では,地震が多発することから崩落の危険性が高まることが懸念されている.しかし現状では,変状・崩落に関しての力学的メカニズムに不明な点が多く理論的知識が不足している.石垣構造の安定性の工学的評価を行い,補修を必要とするか否かの判断を求められる事例も少なくない. 現状の石垣構造の安定性評価の手法としては,孕みだし指数や試行くさび法による安定計算などがある.しかし,これらは石垣の不連続性を考慮しない検討手法であることから,石垣の不連続性を考慮した検討手法の確立が重要である.そこで本研究では,個別要素法(Distinct Element method:DEM)による方法を提案している.これは,粒子の運動を物理学の基本原理に従って追跡することから,石垣の不連続性を考慮することが出来る.さらに,石積構造物を構成する石垣,栗石層,背面地盤を1つの手法でモデル化することが出来るのも特徴である. 石垣構造の一般的な内部断面情報は,地中レーダ探査によって得られ,石垣の断面寸法や栗石層の分布状況などが把握できる.しかし,探査範囲が浅いことや3次元データの取得が困難であることが欠点として挙げられる.3次元データが取得できたとしても, DEMで3次元的に築石の初期配置を作成することは簡単ではなく,計算コストも非常に高い.そこで実務利用に向けて,比較的簡単に検討することができる2次元解析モデルの高度化に注力した. そこで本研究では,まず,既往研究1)で行われた遠心模型実験結果と背面地盤までを考慮した2次元DEMモデルの解析結果の比較を行った.そこで得られた知見を用いて,実在する城郭石垣を調査断面にもとづいて再現し,静的・動的条件の両面から地震時安定性評価を行った.静的解析には,水平震度を一定に保った波形を用い,動的解析には,入力地震波形を熊本地震相当の振動加速度の波形を用いた.静的解析結果と試行くさび法の計算結果,動的解析結果と実際の被災状況を比較することで,提案する数値解析手法が石垣の安定性評価の1つとして貢献できる可能性を検討した.