渡辺靖之 インフラ建設事業の海外展開に関する建設企業の意識と政府支援のあり方に関する研究 鳩山紀一郎 日本政府は質の高いインフラ整備事業の一層の海外展開を図ろうとしており,近年では海外事業を途上国における親日意識醸成の重要な外交手段の1つとして活用している.一方で,海外事業には数多くのリスクが伴うほか,競合国との熾烈な国際競争が待ち受けていることが指摘されている.こうした状況を踏まえ,建設企業が無理に海外事業に取り組んでいるのであれば,政府も建設企業のニーズや見通しに合った的確な支援をすべきだと考える.そこで本研究では,日本の建設企業の海外進出状況を整理した上で,インフラ建設事業の海外展開に対する建設企業の意識を可能な限り本音に近い形で把握し,今後の政府支援のあり方について検討することを目的とする. 初めに,海外事業に取り組んでいる建設系企業の進出国のデータをもとにクラスター分析を実施した.その展開の特徴から,「主に中所得アジア諸国で展開を進める企業」,「高所得欧米諸国でも展開を進めている企業」,「主に低所得遠方国で展開を進める企業」の3つのクラスターを定義した. 次に,海外事業に対する企業の意識を理解するために,ゼネコン数社と建設コンサルタントにインタビュー調査を実施した.続いて,インタビュー調査で得られた見解に対する意見分布を把握するためのアンケート調査を,海外建設協会(OCAJI)正会員企業51社を対象に実施した.そして,回答結果から全体の傾向を確認後,クラスターごとに企業が持つ意識傾向の違いについて分析した. さらに,インフラ海外展開に対する川上側の見解を改めて伺うため,企業への意識調査の結果を共有するために国土交通省及び国際協力機構(JICA)にインタビュー調査を実施した. 調査の結果,やや無理をして海外展開している企業の存在が明らかになった.そのため,各企業が負担の少ない形で海外進出できる環境づくりが必要だと考える.また,企業の積極的な海外進出を実現するためには,企業が海外事業に抱く不安を低減し受注意欲を向上させる必要がある.さらに,一部の限られた企業のみではなく,多くの企業が海外事業に取り組む機会を得られる仕組みづくりも重要である.そこで,政府が重点的に取り組むべきこととして,「トラブル発生時における交渉への積極的介入」,「対象国での継続的な案件形成の見通しの提示」,「各企業が持つ強みを組み合わせて事業を受注できる仕組みの確立」等を考えた.