酒井教行 冬期交通時間価値に着目した道路事業の走行時間短縮便益計測に関する研究 佐野可寸志 本研究は,冬期間の交通円滑化に向けた施策を検討するための研究の一つとして,降積雪時の混雑に起因する移動中の苦痛や肉体疲労等が交通時間価値へ影響を与えるものと考え冬期交通時間価値を推定した.本研究においては乗用車,バス,貨物車と車種別に推定を試みた.乗用車では,ETC2.0プローブデータ走行履歴情報から推定する手法と,経路選択に関するアンケート調査から推定する手法を試みた.乗用車の交通時間価値はいずれの手法においても非冬期と比較して冬期のほうが有意に高くなることが確認された.また,降積雪に関するアンケートの結果から雪道に対する心理的・肉体的負担を緩和する効果が上乗せされていると考えられた.バスでは,経路選択に関するアンケート調査から推定する手法を試みる前段階として,バス事業者への冬期運行状況のヒアリングを行った.乗合バスは経路選択の余地がなく,冬期は非冬期と比較して乗降客数に大きな変動はないこと,貸切バスは季節によらず高速道路を利用しており経路選択が生じることは少なく,冬期は非冬期と比較してバスの稼働率が減少することから,冬期のバスの交通時間価値は推定することは困難であり,本研究では,冬期のバスの交通時間価値は非冬期と同一として扱った.貨物車では,経路選択に関するアンケート調査から推定する手法を試みた.貨物車の交通時間価値は非冬期と比較して冬期のほうが有意に高くなることが確認された.また,降積雪に関するアンケートの結果から,降積雪による速度低下やそれに起因する渋滞により,輸送先への時間的制約が厳しくなり,指定時刻に間に合わせるために降積雪時に支払い意思額が上昇すると考えられた.上記の推定結果を基に,道路事業における費用便益分析の走行時間短縮便益を試算した.その結果,冬期の時間価値を用いて試算したときは,冬期の時間価値を用いずに試算したときと比較して,交通量・降雪日が多いほど便益の差が大きくなり,降雪日が多いほど便益の比が大きくなることが確認された.また,本研究より得られた時間価値を実際のプロジェクト評価に適用した場合の効果を試算した.その結果,降雪時の交通時間価値により走行時間短縮便益が大きく算定されたことにより,費用便益比が上昇することが確認された.(936字)