樋口志那 下水由来の冷熱資源を活用した植物栽培技術の構築 姫野修司、小松俊哉 我々が生活するうえで必要な下水道は、生活排水の収集及び浄化を行うことが主な役割であると同時に、下水処理を行う過程で発生するバイオガスや再生水、熱エネルギー等の資源回収が可能であり、近年ではこのような下水道資源の活用事例が増加傾向にある。下水から回収可能な熱エネルギーは外気温に比べ温度変化が小さく豊富かつ安定した熱源として、都市部の空調利用に活用されてきた。一方で、熱需要家の少ない地方においては空調利用が難しく熱エネルギーがほぼ未利用である。また、また、下水熱の利用事例の多くは冬期の温熱利用であり、下水冷熱については未だ利用事例が少ない。そこで本研究では、地方の一次産業である農業の熱需要に注目し植物栽培への適用を行った。 植物への熱利用として、温熱に比べ利用が僅少である夏期の冷熱利用を行い、冷熱需要のあるワサビ栽培への適用を行った。栽培方法として、昨年度に比べ栽培規模を拡大し、栽培水の温度及び水質の制御することで、より事業形態に近いワサビ栽培での環境構築を行うと同時にワサビ栽培に必要なエネルギーを明らかにすることを目的とした。 研究の結果、下水処理場で処理された下水を熱源として通年の熱エネルギーを回収し、夏期の冷熱源としては外気温と同様、冬期の温熱源としては外気温以上に効率よく熱回収が可能であった。 植物栽培への適用として、ワサビ栽培では下水熱利用により一年を通して栽培水を生育に適した13℃程度に温度を制御するとともに、ワサビに必要成分を明らかにすることで吸収速度を考慮した施肥による水質制御を行い、下水処理場でワサビの栽培環境の構築を行うことで、場所の制約に囚われないワサビ栽培を実施した。一方で栽培設備稼働に必要な電力量を明らかにした結果、多大な電力量が必要であることが明らかとなり、電力の削減を行うことで、電力削減が見込めると示唆された。 また、本研究で実施した栽培方法により、ワサビ栽培を想定し、栽培に要するイニシャル、ランニングコストを試算し、想定されるワサビの売上高と比較したところ投資回収が困難であることが明らかとなり、ランニングコストの占める割合の大きい電力量の削減が課題であることが示唆された。