岡野 勝也 下水汚泥の嫌気性消化におけるオゾン前処理の適用とシステムのエネルギー評価 小松俊哉 姫野修司 現在,日本で発生する下水汚泥量は産業廃棄物の約20%を占めており,下水汚泥の有効利用や減容化等の技術が求められている.特に嫌気性消化(メタン発酵)は下水汚泥をはじめ廃棄系バイオマスからメタンをエネルギーとして回収することができる.しかし,下水汚泥の嫌気性消化において余剰汚泥は微生物の細胞が主体であるため,初沈汚泥と比較して難分解性であり,メタン転換率が低いことが課題とされる.本研究では濃縮余剰汚泥にオゾン前処理を実施することで余剰汚泥の可溶化および嫌気性消化におけるバイオガス発生量の増大を図った. 濃縮余剰汚泥に対して15〜80mg-O3/g-TSの条件でオゾン前処理を実施した結果,TS,VSの変化が小さい一方,S-CODの増加,NO3--Nの生成が確認でき,余剰汚泥の可溶化を確認した.しかし,オゾン吸収量が高くなるにつれ,S-CODの増加は小さくなった.低分子化した溶存有機物にも反応して消費されており,可溶化率の低下および有機物の無機化が多少進行したと考えられた. 余剰汚泥の未処理およびオゾン処理汚泥の消化特性を把握するためにこれらを基質として回分式嫌気性消化実験を実施した.バイオガス発生量やTS,VS分解率の向上がみられたが,その上昇は30〜40mg-O3/g-TS程度以上での増加量は低下したため,オゾン吸収量は30mg-O3/g-TS程度が望ましいと考えられた.オゾン吸収量が高い程,初期段階で発生量が低かった一方で,最終的な発生量では逆転するといった傾向が確認された.可溶化した易分解性有機物の無機化に起因するものと考えられ,一方で,オゾンは固形分にも反応しており,低分子化した有機中間物質が多く存在したためと考えられる. 続いて連続式嫌気性消化実験を実施した.連続実験では余剰汚泥単独(オゾン30,60mg-O3/g-TS)でHRT30日,20日,および初沈汚泥と余剰汚泥(オゾン15,30,60mg-O3/g-TS)を混合した条件で実施した.HRT30日,HRT20日どちらとも安定した運転が確認でき,回分実験同様メタンガス発生量の増加およびTS,VS分解率の向上が確認できた.HRT20日の未処理と比較した増加率では48.6〜61.7%と高い値を示しておりオゾン処理の効果が期待できる結果となった.初沈汚泥と余剰汚泥を混合した系列では単独よりは低下したもののメタンガス発生量は5.0〜20.6%増加した. 連続実験の結果に基づき,オゾン前処理システムを実下水処理場(下水処理量:121,800m3/d)で組み込んだ場合のエネルギー収支を試算し,オゾン前処理システムを評価した.その結果,オゾン15,30mg-O3/g-TSの系列でエネルギー収支としては正の値を示した.オゾン30でエネルギー収支は最大となり,5.2GJ/d(kWh換算:1,444kWh)の増加が見込める結果となった.これは,電力量として一般家庭(3人世帯)118世帯分の消費電力に相当する.