久保 慶汰 高齢者介護施設における避難行動の事前把握に関する研究 松田 曜子 近年,集中豪雨や台風等による水害,土砂災害による被害が各地で発生している.2016年8月に発生した台風10号では岩手県岩泉町を流れる小本川が氾濫し,高齢者グループホーム施設の利用者9名が犠牲となった.また,一連の台風によって中小河川が氾濫し,逃げ遅れによる多数の死者が発生した. これに伴い,要配慮者利用施設における利用者の円滑かつ迅速な避難を図る目的で,2017年6月に水防法及び土砂災害防止法が改正され,避難確保計画の作成と避難訓練の実施が義務化された.このように要配慮者利用施設に対する安全性の向上が求められている一方で避難確保計画の作成率は2019年3月31日時点で約36%となっている.水害時に円滑で安全な避難判断・避難行動が求められる高齢者介護施設の個別的な避難確保計画作成を目指し,実行性のある計画にする必要がある.また,高齢者介護施設の地理的条件や施設の属性により,各高齢者介護施設の問題を把握し,問題を考慮した避難確保計画にしていく必要がある.そこで本研究では高齢者介護施設の避難行動の事前把握について調査,分析を行い,地理的条件等による施設の問題を把握し,個別的な避難確保計画作成に対して提言を行うことを目的とした. まず,高齢者介護施設の地理的条件および施設属性による避難行動の事前把握の違いを調査するために,信濃川沿岸15市町村の想定浸水区域内に立地する入居型高齢者介護施設を対象にアンケートを送付した.アンケート結果より,地理的条件による把握時間の違いを確認するため,様々な地理的条件により施設を分類し,平均値の差の検定により有意な差がある条件を分析した.次に,把握の有無に対する影響力の大きさを定量的に把握するためロジスティク回帰分析を行った.アンケート結果で明らかとなった事前把握への影響要因について,考察との整合性を図るためにヒアリング調査を行った.アンケート結果で明らかになった条件にあう施設をアンケートで回答のあった入居型高齢者介護施設から抽出し,ヒアリングを避難の判断を行う施設責任者を対象に行った.アンケート調査,ヒアリングの結果から,高齢者介護施設の避難行動の事前把握は一定程度,地理的条件,施設属性により影響を受けていることが明らかになった.これらより,地理的条件等による自施設の課題を明確にし,スムーズに避難行動をできる避難確保計画を策定する必要があると考えた.