山口 敦嗣 高齢者介護施設における避難の実効性向上を目的とした防災教育に関する研究 松田 曜子 近年,異常気象等による水害,土砂災害による被害が発生している.2016年8月に発生した台風10号では岩手県岩泉町の高齢者グループホーム施設で利用者9名が犠牲となった.これに伴い2017年5月に水防法の改正が行われ,自治体の地域防災計画に定められる施設では避難確保計画及び避難訓練の実施が義務化された.しかし,2019年3月末の時点で策定済みの施設は全体の約36%に留まっている.要配慮者が避難する場合,一般の人より避難に時間,介助者や機材を多く必要とする中でよりスムーズな避難判断が要求されるため各施設での災害発生時の体制強化が望まれる. 本研究では,要配慮者施設の中でも自力避難が厳しい利用者を多く抱え,迅速な対応が必要であると考えられる入居型高齢者介護施設を対象とし,災害発生時に正確で迅速な避難判断及び行動を行うために,日常的に施設職員に対して行うべき防災教育について提言を行うことを目的とする. はじめに,高齢者介護施設における避難時に生じる固有の課題及び,避難確保計画策定上の課題を,避難経験を有する2つの施設におけるヒアリング調査により明らかにした. 次に,現状入居型高齢者介護施設において避難を決定する要因となる情報,施設における避難のリードタイムを事前に把握しておくことが及ぼす避難判断への影響について信濃川沿岸15市町村の浸水想定区域内に立地する入居型高齢者介護施設を対象としたアンケート調査により明らかにした. また,入居型高齢者介護施設においては施設種別ごとに利用者の症状も様々であるため,水害発生時にとるべき行動等大きく異なると考えられる.これらの避難行動が異なる施設の要素をヒアリング調査により明らかにした. 以上の結果を踏まえ,リードタイムは防災訓練によって事前に理解しうるものであるという点に着眼し,日常的に施設職員に対して行うべき防災教育として,リードタイムに着目した防災教育のモデルについて検討を行った.検討を行った防災教育のモデルは,実際に2つの施設の職員に対して,ワークショップ形式で試行し,各施設で策定されている避難確保計画の実現可能性の検証及び新たに実施すべき水害対策を副次的に明らかにすることができた.また,それらの副次的に得ることができた項目においては,避難確保計画の記載必須項目として定められている内容との関連性の観点から,実現可能性の高い避難確保計画の策定に向けた反映への可能性の効果について検討した.