紙本 四季子 水害に着目した小規模病院における経験学習の実践的研究 松田 曜子 近年,水害が増加しており,事業継続計画(BCP)が企業だけでなく病院でも重視されている.各種病院の中でも小規模病院(病床規模が20床から99床)は,厳しい経営や職員不足等の問題により,日頃から実施可能で,職員が動きやすいBCPの策定が困難な状態である. 本論文では,過去に災害を経験した小規模病院が,災害遭遇経験を生かし,日頃から取り組むことのできる災害対策要素の抽出を目的とした.研究は経験学習モデル論に基づき,タイムラインの作成,アンケート調査,現場見学,インタビュー調査,ワークショップを行った.その結果,厚生労働省BCPを補う要素が明らかとなり,さらに病院の部署同士が連携することによって災害対策を効率的に考えられる可能性が示された. 本研究は経験学習モデル論に基づいて構成しており,小規模病院の中でも滋賀県高島市にある今津病院に根ざした事例から知見を得た.経験学習モデル論とは,①具体的経験,②内省的観察,③抽象的概念化,④能動的実験の4ステップを何度も繰り返し実践することで理想的な学習が可能であるとされる理論である. 今津病院は2018年台風21号によって停電や雨漏りなどの被害に遭った.タイムラインの作成とアンケート調査は,台風21号の経験を災害体躯に生かすための内省と状況整理を目的に実施した.その結果,「病院近隣に居住している職員がごく少数であり,災害時の職員の参集と人員確保が困難となること」や災害時に患者を守るためには,発災前に職員の安全を確保できる環境を整えておく必要があること」が明らかとなった.次に,災害における病院の脆弱性を明確にする目的で,現場見学とインタビュー調査を行った.これにより,「病院全体として電力への依存が強いこと」や「独立した業務を行っている部署・職種であればあるほど,そこへの依存が集中していること」が明らかとなった.そして,災害リスクを洗い出し,具体的な災害対策を考えるためにワークショップを実施した.この結果として,厚生労働省BCPとの照合が可能となり,「厚生労働省BCP補う病院独自の項目が示されたこと」や「部署同士の連携により,災害対策を効率的に考えられる可能性があること」,「他医療機関においても当てはまる項目あり,汎用性が示されたこと」が明らかとなった. 本研究を通して得られた成果としては,経験学習モデル論に基づいて災害遭遇経験を振り返ることによって病院の災害リスクが明確となり,そして厚生労働省BCPと照合することで病院独自の要素が明らかとなった.