早津諒介 地下水面の位置が及ぼす地表面蒸発の影響に関する研究 陸旻皎 水循環の諸過程を理解することは,非常に重要である.ここで,水循環における蒸発について考えてみる.蒸発の要因は様々であるが,考えられるものとして気温や湿度,日照時間等がある.日本において気温は,多くの観測所によって記録されており,蒸発式に組み込みやすいため,研究が盛んである. しかし気温や湿度,日照時間等の他の要因を考えた場合に,砂漠のような乾燥している土壌と,大きな降雨があった直後のような湿った土壌では,同じ気象条件であったとしても蒸発量が違うことが予想される. 以上を踏まえ,本研究では恒温室を用いた常温環境条件下で,地下水面の深さを変化させることで蒸発速度の変化を測定し,3種類の粒径ごとの実験結果より得られたデータからvan Genuchtenモデルの比透水係数と複数の土壌面湿潤度の式と比較しRMSE(root mean squared error)を用いて評価した後に考察することを目的とした. 実験結果によって得られた比蒸発速度とvan Genuchtenモデルの比透水係数の比較については,粗砂,細砂に比べシルトはRMSEの値が小さいことが分かった.粒径が大きいとvan Genuchtenモデルの比透水係数は地下水位0~50mmの間で急激に低下し,毛管力が小さい分土壌表面への水の供給量が少なくなることが考えられ,それに伴い土壌面蒸発量も小さくなると考えられる.逆に粒径が小さいほど比透水係数は低下しづらいため,本実験で使用した粒径の中で最も粒径の小さいシルトの比蒸発速度がvan Genuchtenモデルの比透水係数に適合できたことが考えられる.どの粒径に関しても地下水面の深さが低下するにつれ比蒸発速度は低下する傾向がみられるが,地下水位0~50mm間で急激な比蒸発速度の変化はみられない.地下水面が浅く土壌粒径が大きい場合においては,毛管力とは別の特性が蒸発に影響していることを示した. 体積測定法によって得られた比蒸発速度と土壌面湿潤度との比較では,粗砂のみが比蒸発速度と土壌面湿潤度の理論式の1つであるBarton式と同じような振る舞いを示した. しかし,地下水面の深さが1000mmのような深い場所については,関係性が低下していくことが示された. 総括として,地下水面の深さに対する比蒸発速度と比較したvan Genuchtenモデルの比透水係数と5種類の土壌面湿潤度の理論式の関係がすべての粒径に対し,当てはまるものはないが,van Genuchtenモデルの比透水係数については,シルトの比蒸発速度と近いふるまいをし,土壌面湿潤度についてはBarton式が粗砂の地下水面の深さ0~500mm間の比蒸発速度と近いふるまいを示した.よってシルトに関してはvan Genuchtenの比透水係数を計算し,粗砂に対しては土壌面湿潤度の1つであるBarton式を計算することで,各地下水面の深さに対する蒸発速度の比率が算出できることを示した.