中山航志 土壌水分欠損量を用いた土砂災害リスク評価に関する研究 陸旻皎  土砂災害の予測を行う上で、土壌水分量の評価は重要である。現在気象庁において土壌雨量指数の算出に用いられているIshihara & Kobatake (1979)の直列3段タンクモデルは日本全国一律のパラメータを用いており、地域ごとの土壌の特性の違いを反映していない。土壌水分量を評価する従来のモデルでは土層の深さを仮定する必要があり、モデル内の水分の絶対量が仮定する土層の深さに大きく影響される問題がある。また、土層の深さを仮定するため土壌の特性を反映させることが容易ではない。そこで、これらの問題を解消するために土壌水分欠損量(Soil Moisture Deficit、以下SMD)を用いたモデルを提案した。SMDは土壌が飽和状態にあるときを基準として, 飽和状態になるまでに不足している水分量を評価する指標である。SMDを用いたモデルでは地表を基準としており、土層の深さを仮定する必要がない。そのため、土壌の特性を反映することが比較的容易である。今回は降水と蒸発のみを考慮し、計算メッシュ間での水の移動を行わない簡易的なSMDモデルを作成した。降水には新潟県周辺のAMeDAS観測点のデータを使用した。冬期間の降雨に関しては気温が2℃以下場合の降水を降雪として扱い、DereeDay法によって融雪を求めてSMDに反映させた。蒸発にはSelianinovが提案した有効積算温度による蒸発能とDeardorffによる蒸発効率の式を用いた。また、土壌の影響については国土数値情報の『土地分類メッシュ』と農業・食品産業技術総合研究機構の『日本土壌インベントリー』からSMD及びBrooks and Corey式の計算に必要なパラメータを日本全国の土壌分類に対して算出した。本研究では、Fortran90によるメッシュ計算プログラムを作成し、気象庁タンクモデルを適用することで、タンクモデルの新潟県での適用性を確認するとともに、同様のメッシュ計算プログラムにSMDモデルを適用することで新潟県全域のSMDの計算を行い、実際に発生した土砂災害事例と比較することで土砂災害リスク評価手法としての適用性を検討した。その結果、気象庁タンクモデルによって土壌雨量指数の算出に使われているパラメータで新潟県での降雨イベントを再現することは難しく、また同一のパラメータを用いて新潟県での複数の降雨イベントを再現することは困難であることを確認した。また、SMDが高い値を示していると土砂災害は確認されず、SMDが低い値を示している状況で中規模の降雨があると土砂災害が発生しているケースを多数確認した。