遠藤優斗 光学式反射型固体降水観測器の降水量に対する風向風速依存性に関する研究 熊倉俊郎 豪雪地帯における課題である降雪による被害・災害に対して,本研究室では,固体降水に対して感度が良い近赤外線を用いた光学式反射型固体降水観測器(以下本測器と称する)を開発している.本測器は,近赤外線の照射領域を通過する固体降水の反射強度と継続時間を基に,粒径相及び落下速度相当値を得ることができる.これらを用いて,無風下において降水量及び降水種判別の推定が可能である.しかし,実際の観測では降水粒子が風の影響受け,観測領域への入り方により無風時と観測値が異なる可能性がある.そこで,本研究では本測器の観測値に対する風の影響を検証するとともに,降水量推定式に対する補正方法の提案を目的とする.2018年12月31日から2019年3月26日の期間に,防災科学技術研究所雪氷防災センターの露場において観測を行った.観測に際し,2018年1月の降雪時の風向風速から主風向を南西と定め,露場に南西向きと北西向きで2台,防風ネット内に1台本測器を設置した.観測結果より,風向風速のデータ数が多く,0°以下で降水がみられた2019年1月23日から1月29日の期間を解析対象とし,1分データを用いることとした.降水量の推定には,防風ネット内の本測器の観測値と重量式降水量計GEONORの降水量の回帰により係数を定め,降水量推定式とした.この式を露場の本測器2台に適用したところ,決定係数が0.4以下となったことから,風による計測誤差があると考えられた.そこで,データを風向の16方位ごとに分割し,測器正面に対する入射角度ごとに再分類を行った.入射角度は左右対称を同一と仮定し,正面を0°として,背面180°までの区間を9つに分けることとした.各入射角度において,風速0.5m/sごとに平均捕捉率(測定値/真値)を求め,その関係の検証を行った.ここで,類似する結果を示した入射角度を合わせ,0°から56.25°までの区間1,2,3を正面方向,56.25°から123.75°までの区間4,5,6を側面方向,123.75°から180°までの区間7,8,9を背面方向と定義した.検証により,正面方向は風速に依らず平均捕捉率が1を上回ることがわかった.側面方向は,平均捕捉率は約1となった.背面方向は,平均捕捉率が風速に反比例し,また,180°に近づくほど捕捉率が下がる傾向を示した.以上の結果を元に,降水量推定式の補正係数は3つの方向ごとに定めることとした.正面方向は全ての区間の捕捉率の平均を求め,その逆数を用いて0.755とした.側面方向は1とした.背面方向は,最背面である区間9を基準に捕捉率と風速の線形回帰により式を求め,1/(1+0.466Ws cosθ)とした.Wsは風速,θは入射角度である.なお,背面方向の補正係数は風速が2m/sより大きい場合,捕捉率を正しく表現できない.また,観測において風速2m/s以上のデータがほとんど得られなかったことから,本解析で求めた補正係数は低風速にのみ有効だと考えられる.