渡邉一旭 地盤と構造物の統合熱伝導解析に基づく通信用マンホール内の乾湿環境の評価と鉄筋腐食予測 下村 匠 通信用マンホールは全国に約70万個存在し,2030年に全体の約8割が老朽化するため、効率的に維持管理することが求められる.本研究は,通信用マンホール内の温度差に起因した結露による劣化リスクを適切に評価可能な劣化予測システムを構築し,通信用マンホールの効率的な維持管理計画を提案することを目的として,マンホールの熱伝導解析法を構築し,温度差からコンクリート中の含水状態を予測した.さらに,鉄筋腐食の進行に及ぼす水の影響に関する実験を行い,コンクリート中の含水状態や温度に対応した鉄筋腐食進行予測の解析法を検討した.最終的に構築したマンホールの劣化予測から通信用マンホールの維持管理計画を提案し,各維持管理計画とその費用に関して比較検討を行った. 最初に,地盤とマンホールの統合熱伝導解析法を構築し,温度解析の結果から結露の発生状況とコンクリート中の水分移動解析により上床版コンクリート中の含水状態を予測した.構築したマンホールの熱伝導解析法を用いることで全国各地に埋設されたマンホール上床版と内部温度の測定値を精度良く再現することが可能となった.また結露は冬期に主に発生することから,マンホールコンクリートは冬期に飽水状態に近く,夏期に乾燥状態となることを解析により示した. 次に,鉄筋腐食進行に及ぼす水の影響に関する実験を実施し,各水分供給条件を与えたRC試験体と鉄筋単体の試験体により腐食性状および自然電位の計測を行った.コンクリート中の鉄筋は水のみの作用により1年間では腐食しないが,鉄筋単体では腐食し,RH100%の場合と水中の場合には腐食性状が異なることを示した. 最後に,マンホールの含水状態の予測結果と実験結果を踏まえ,それらの影響を既往の鋼材腐食モデルに適用する方法と劣化予測システムの妥当性を検討し,各維持管理計画における費用の比較検討を行った.鉄筋腐食速度にコンクリートの細孔中の水分量を乗じることで,コンクリート中の鉄筋腐食速度を再現できること,健全状態のマンホールの鉄筋腐食率の解析値は測定値の傾向を概ね再現できること,劣化予測に基づき剥落発生前に補修する維持管理を実施することでその費用を削減できる可能性があることを示した. 今後の課題として,本研究でマンホールの劣化予測システムの適用範囲が溜り水のあるマンホールに限定されること,かぶりコンクリートの剥落後の鉄筋腐食の進行を明らかにすることが挙げられる.