小池耕太郎 鉄筋の腐食膨張によるコンクリートのひび割れ形成に関するメゾスケールモデルの構築 下村 匠 本研究では,RC構造物表面の腐食ひび割れ性状からコンクリート中の鉄筋腐食を推定する手法を提案することを目的として,鉄筋腐食の不均一性,内部ひび割れの発生・進展の影響,腐食生成物の流動を考慮した腐食ひび割れ予測モデルを提案し,実験結果や実構造物で検証した。 最初に,既往研究で得られた実験結果から,鉄筋腐食の不均一性について検討を行った結果,腐食ひび割れと腐食量の関係は,任意に設定した空間平均内(メゾスケール)に存在する,体積あたりの腐食ひび割れの総和と腐食量で整理することによって,線形に近い関係が得られた。また,本研究の特徴であるメゾスケールモデルについて,説明を行った。 次に,かぶりと鉄筋あきの関係が表面ひび割れと内部ひび割れの形成順序に影響を及ぼすことを示した既往研究の実験結果について,数値解析を用いて検証するとともに,かぶりと鉄筋あきの組み合わせが表面ひび割れの発生に及ぼす影響について一般的な傾向を把握するため,実験条件を補完する範囲で系統的な数値解析を行った。その結果,かぶりが鉄筋あきよりも大きいと内部ひび割れが先行し,表面ひび割れの発生が遅れる傾向であることを示した。 次に,円筒の供試体を作製し,鉄筋腐食による膨張を拘束するリングを取り付けることで,コンクリート中の鉄筋腐食により生じる腐食生成物の膨張挙動を経時的に計測した結果,以下のことが確認された。@腐食減量率1%前後までは,腐食膨張圧は発生しないか非常に小さい。その後,A腐食減量率10%程度まで線形的にひずみが増大する。B腐食減量率10%以降は,ひび割れ幅が十分大きくなり,腐食生成物のほとんどがひび割れから流出し膨張に寄与しなくなる。加えて,腐食減量率が1〜10%の範囲と,10%以降では,腐食減量率の増加に対して拘束リングのひずみの増加量の比率が異なることが示された。 そして,鉄筋腐食の不均一性,内部ひび割れの発生・進展の影響,腐食生成物の流動,これら3つの検討を考慮した腐食ひび割れ予測モデルを検討した結果,腐食ひび割れと腐食量の関係は,任意に設定したメゾスケール内の体積あたりの腐食ひび割れ−腐食量で考えることが有効であることが示された。 最後に,提案した予測モデルを用いて,コンクリート表面の腐食ひび割れ性状から鉄筋の腐食量を予測した結果,部材軸方向1000mm程度の範囲を精度良く予測することができた。