工藤 めい

コンクリート部材への水の浸透・乾燥に及ぼすひび割れの影響に関する実験と数値解析

下村 匠

水の浸透によるコンクリート中の鋼材腐食が問題となっており，コンクリートへの水の浸透過程を精密に予測する手法がいっそう求められている．一方，供用中のコンクリート構造物には，ひび割れが生じているものが多く存在するが，ひび割れがコンクリートの水の浸透および乾湿挙動に及ぼす影響についての定量的な関係は明らかとなっていなく，ひび割れの影響を精度よく考慮できる技術的基盤を構築することが望ましい．そこで本研究では，一本および複数本のひび割れを有するコンクリート供試体を用いて乾湿繰返し試験を行った．また，ひび割れの影響を考慮した数値解析法を開発し，その結果に基づき，複数本のひび割れを有するコンクリートの乾湿挙動について，ひび割れの影響を効果的に表す方法を検討した．
まず，一本のひび割れを有するコンクリート供試体を用いて，吸水を伴う乾湿繰返し試験を実施した．その結果，ひび割れはコンクリートの吸水，乾燥に影響を及ぼし，ひび割れ幅が大きいほどその影響が大きくなることを確認した．実験結果に基づき，ひび割れの影響を含むコンクリートの乾燥・吸水性状について，コンクリート細孔組織中の水分移動とひび割れ内の水分移動およびそれらの相互作用を考慮した2次元の数値解析法を構築し，実験結果の再現解析を行った．その結果，実験結果の傾向をひび割れの影響を含めて良好に再現できた．
次に，種々のパターンのひび割れを複数本有するコンクリート供試体を用いた乾湿繰返し試験を実施した．その結果，ひび割れを複数本有するコンクリートの乾湿挙動は，ひび割れ幅，ひび割れ間隔の平均値を用いることで一本のひび割れを有するコンクリートの乾湿挙動から予測できること，ひび割れの影響はひび割れ幅とひび割れ間隔の比であるひび割れひずみにより表すことができる可能性を示した．さらに，本研究で構築した水分移動解析法を用いて，長期乾湿挙動に及ぼすひび割れの影響，乾湿作用の影響について感度解析を行った結果，ひび割れひずみがひび割れの状態を表す有効な指標であること，長期乾湿挙動を予測する場合は月単位の乾湿サイクルの環境作用モデルを用いても十分な結果が得られることを明らかにした．
最後に，構築した水分移動解析法の実環境下への適用性について，複数本のひび割れを有するコンクリートによる暴露試験および気象データに基づいた実験結果の再現解析により検討した．その結果，コンクリートの乾湿挙動に及ぼすひび割れの影響を適切に考慮しつつ，実環境作用の影響を受けるコンクリートの乾湿挙動を精度よく再現できることを示した．