木沢敬太 既設部と補強部との協働を考慮したコンクリート構造物の補強に関する検討 下村 匠 本研究では,コンクリート構造物の補強において,劣化した既設部の残存性能を期待した補強設計・施工法の確立を主目的として,特に既設部と補強部との協働メカニズムに着目し,劣化したRC部材の補強を対象とした有限要素解析により,補強後の性能評価を行った。 最初に,既設部材と補強部材との協働に関する基礎的検討として,単純なRC梁部材の補強を考え,補強部材を併設した場合の接合条件や劣化程度が補強後性能に及ぼす影響について,有限要素解析による検討を行った。その結果,既設部材の劣化程度の低下が補強後性能に寄与することが明らかとなり,この寄与を期待した補強設計により,追加する補強部材の断面寸法をさらに削減可能となることを示した。 次に,塩害により劣化した実橋梁における補強事例を対象として,劣化した既設部の補強後性能への寄与を期待した補強設計・施工法に関するケーススタディを行った。具体的には,劣化した既設主桁をボックスカルバートにより支持する補強構造を対象に,既設部と補強部との協働メカニズムを考慮した設計の手法および最適な施工法について,有限要素解析による検討を行った。その結果,実際に行われた施工は,安全側の設計仮定を満足することが確認された。さらに,既設主桁とカルバート間に充填する間詰め材を地盤材料に置換した場合,既設主桁が常時作用の大部分を受け持つような分担のメカニズムとなることを明らかにした。これにより,カルバート頂版に生じる引張応力を大幅に低減可能となり,提案の地盤材料充填による補強施工が,既設部の残存性能を期待した補強設計を実現するための施工法となり得ることを示した。 最後に,補強事由が異なる実橋梁におけるケーススタディとして,要求性能レベルの変更により耐震補強の必要性が生じた実橋梁を対象に,既設構造の詳細な性能評価を行い,適切な補強について勘案した。具体的には,RC充腹アーチ構造を有する対象橋梁の躯体内部に充填された中詰め土を,砂箱振動実験の再現解析結果に基づきモデル化し,有限要素法により構造物全体系の詳細な耐震解析を行った。その結果,橋軸方向,橋軸直角方向のいずれの加振ケースにおいても,弾性範囲内の応答値となることから,対象橋梁における充腹アーチ構造が死荷重作用の支配的な可撓性のない構造であることを示した。したがって,補強の必要性は無いものと判定された。