荻野尋紀 高力ボルトの腐食減肉による締付け軸力低下についての解析的検討 岩崎英治 昨今,高度経済成長期に整備された構造物について,建設後40〜50年が経過し,老朽化が懸念されている.特に,我々の生活において不可欠な社会資本については,常に安全な供用がなされなければならず,老朽化への対応は喫緊の課題であり,異常箇所の早期発見のため,適切な点検・維持管理が重要となる. 鋼橋において,ボルト継手部は,その複雑な形状により,腐食の要因となる飛来塩分や水分が滞留しやすいことや,鋼橋における一般的な防錆対策である塗装について,均一な塗装被膜が確保しにくいという点から,特に腐食が発生し易いとされている.このような,ボルト継手部における腐食の発生では,腐食によるボルトやナットの減肉に起因する,摩擦接合継手のすべり耐力の低下も指摘されており,鋼橋の維持管理においては,特に注意が必要となる. こうしたボルト継手部の腐食減肉と,ボルト軸応力低下について,その具体的なメカニズム等は未解明で,実橋の維持管理において,腐食減肉が発生したボルトに対する評価指標として適用するに至っていない.また,非破壊での残存応力測定法として,超音波を用いてボルト軸力を測定する技術も開発されているが,これはボルト表面の研磨を必要としており,腐食したボルトに対し,現地で測定を行うことには適していない. そこで本研究においては,FEM解析を用いて腐食による軸応力低下のメカニズムを検討し,ボルト継手部における腐食減肉の発生とボルト軸応力低下量の関連性についての検討を行うとともに,腐食減肉の発生位置による影響についても検討を行った. その結果として,ボルト頭部およびナットでの腐食減肉に起因する,ボルト軸応力低下については,ボルト頭部,ナット,鋼材のいずれか,あるいは複合的に発生する,部分的な塑性ひずみが要因となっていること.および,ナットおよびボルト頭部において生じる腐食減肉について,その発生位置によりボルト軸応力低下量は大きく異なることが明らかとなった. また,これらの結果から,ナットおよびボルト頭部の腐食について,それぞれの座金との接触面付近に腐食減肉が発生している場合には,ボルト軸応力の大幅な低下が生じている可能性があり,早急な対応が求められるが,一方で,その他の箇所に生じている腐食減肉については,腐食状況について継続して観察することが求められるが,ボルト軸応力低下については大きな懸念はないといえる,という点について,実橋における維持管理適用へ向けての指針提言とした.