岩田龍也 炭素繊維シートを用いた鋼構造物の振動制御 宮下剛 准教授 鋼橋では,大型車両が伸縮継手を通過する際に,桁端部ウェブパネルが振動する低周波騒音の問題がある.従来,ダンパー設置や伸縮継手の改良といった対策が施されているが,施工が大掛かりとなり死荷重の増加に繋がる.そこで,鋼部材の腐食損傷に対する補修・補強材料として用いられており,軽量,高強度,高弾性などの優れた特徴を有する炭素繊維シートに着目する.既往の炭素繊維シートの振動特性に関する研究については,減衰特性を明らかにする研究は行われている.しかし, 炭素繊維シートを接着させた鋼板の振動特性に関する研究は行われておらず、基礎的なデータ収集が必要となる。 そこで,本研究では,軽量かつ高剛性の炭素繊維シートに着目し,効率的な振動制御(剛性と減衰の付与)を可能とするシートの貼り方や形状等の検討を行った.初めに,基礎的な振動抑制効果と積層数の影響などを検討するため,幅の狭い梁鋼板を用いて,振動計測実験を行った(実験@).次に,炭素繊維シートの貼り方や形状等の違いによる影響を確認するため,幅の長い鋼板を用いて振動計測実験を行った(実験A).各実験に対して試験体を製作し,レーザードップラ速度計を用いて計測を行い,固有振動数と減衰比を同定した.対象とする振動モードは,全体系の1次モードとした.なお,各実験の試験ケースにおける固有振動数の理論値は,長方形の片持ち鋼板の公式と炭素繊維シートの鋼換算厚さを用いて算出した. 実験の結果から得られた知見を以下に示す.1)実験@において,鋼板に炭素繊維シートを接着し,積層数を増加させることで,固有振動数と減衰比が増加した.このことから,炭素繊維シート接着による振動制御が確認できた.また,実験値と理論値は概ね一致した.2)実験Aにおいても,実験@と同様に炭素繊維シート接着における振動制御を確認した.L字アングル状にシートを加工した試験体において,少ない貼付け面積で固有振動数が増加するものの,減衰の増加は限定的であった.等間隔に貼り付けることで、より効果があると見込まれる.3)今後の課題として,L字アングルの本数を増やした場合の計測実験,実構造物への適用へ向けたFEAを用いた事前の解析的検討が挙げられる.