高橋 直紀 半島陰影部に位置するポケットビーチでの波浪挙動に関する研究 犬飼 直之 2017年8月11日に福岡県古賀市にある古賀海岸において,子ども2人を含む計4名が沖に流され死亡するという事故が発生した.この海岸は両岬を有するポケットビーチであり,汀線から約200m沖側には人工リーフを有する.当日の海象は穏やかであったが,突然高波高の波浪が襲来し,左側岬根元部の汀線際で遊んでいた子どもらを沖へと流した.  本研究では,主に最寄りのNOWPHAS玄界灘のデータを元に長期的・短期的な海象の変動を把握するとともに,古賀海岸周辺の地形性等にも着目し,流れ成分を河口流出流,吹送流,潮汐流,波浪の4つに分類し検討を行うことで事故が発生した原因を明らかにすることを試みた.  検討の結果,河口流出流,吹送流,潮汐流の3つは海象悪化との関連性が見られなかった.NOWPHAS玄界灘で観測される波浪は主にNNEからの入射とNNWからの入射に分けられる.卓越波向であるNNEからの入射の場合,古賀海岸は渡半島や大小の島々の陰影部に位置しており,回折・減衰した波浪が入射するため古賀海岸では通年で穏やかな海象となる.しかし,波向がNNWに遷移すると波浪が古賀海岸に直接入射するため一気に海象が悪化する可能性がある.この波向時にNOWPHAS玄界灘で観測された波浪が古賀海岸に到達するまでの時間は群速度の式より約70分と得られた. 入射波向別の波高変化を定量的に把握するため,波浪推算ソフトSWANによる計算を実施した.NOWPHASの地点をN側境界としてその地点で造波を行った.波向NNE時は波浪が回折して入射する形になり,古賀海岸付近での波高は有義波では0.26m,最大波では0.38mとなった.波向NNW時は有義波では0.80m,最大波では1.11mとなった.よって,波向の変化によって古賀海岸での波高は約3倍に増加するという結果が得られた.  事故発生日は低気圧が中国地方沿岸部をゆっくりと東進しており,風向はN寄りに遷移し,玄界灘での波高が増大するとともに,波向はNNEに集中している.通常であれば玄界灘では様々な方向からの波浪が入り乱れ,波向は-90〜90°で不規則な変化となる.しかし,事故発生日は波向がNNEに収束しているため,一方向からの発達した波浪が玄界灘に入射したため波高が増大した.そこで波向がNNWに遷移した場合,その高波浪が古賀海岸へ入射する.今回の事故は玄界灘の地形性と,低気圧の通過による波高増大と,波向の突発的な遷移によって発生したものと考えられる.事故時の流れは定常的な離岸流ではなく,急な高波によるものだと考えられる.