小池悠斗 波浪が砂浜を遡上する海岸におけるビーチカスプ地形の生成条件に関する研究 犬飼直之 海における水難事故の多くは遊泳中に発生しているが,砂浜上で波に攫われるという事故も発生している.新潟県においても平成26年に上越市の上下浜海岸で突然の高波に子供3名が沖に流され,救助に向かった大人2名を含む5名が亡くなる水難事故が発生している.この事故は遡上波と戻り流れが原因であり,戻り流れは遡上した波が沖に戻るときに離岸流よりも速い流下速度で人を海に引き込む流れであり,遡上波と地形の相互作用によって発生することが明らかとなっている.そして上下浜海岸では約1mの波浪で遡上波による水難事故が発生する危険性があることも判明している.また,戻り流れが発生しやすい海岸の特徴は急勾配な海底を有し,ビーチカスプを形成するということが明らかになっており,地形標高データより危険な海岸の特定も行われている. 本研究は水難事故の防止を目的として,戻り流れを誘発する要因であるビーチカスプの特性と波浪特徴の把握,そして戻り流れが発生する海岸の新たな特定方法の確立を行った.ビーチカスプの特性把握では戻り流れによる事故が発生した上下浜海岸を対象に現地調査を実施し,ビーチカスプの形成条件及び特性を明らかにした.戻り流れを誘発する波浪の特徴は,現地調査によって得られたビーチカスプの特性から過去に観測された波浪を使用して,ビーチカスプの形成状況の推算を実施することで把握した.推算より,戻り流れを警戒すべき波浪の特徴は,夏季における出現数は推算に用いた全波浪の約2.5%程度であり,波高1.0m周期5.2s以上であれば発生することが明らかとなった.そして戻り流れが発生する海岸の新たな特定方法は,現地調査より明らかしたビーチカスプの特性である,前浜勾配が1/15以上の海岸に形成されやすいという特性を用いて,国土地理院が提供している5mメッシュの地形標高データからビーチカスプが形成されている海岸の特定を実施した.また,戻り流れが発生する海岸の特徴は海底勾配が1/10以上であることも含まれているが,海底勾配と前浜勾配の関係性の把握によって両者は近似的な関係であることが明らかとなったため,両勾配をほぼ同一勾配と捉えることで従来の特定方法よりも精度の向上を図ることができた.新潟県内を対象に5mメッシュの地形標高データによるビーチカスプ地形の抽出を実施し,9海岸中6海岸でビーチカスプを抽出し,良好な抽出結果を得ることができた.