尾谷 力 半円形供試体曲げ試験によるアスコンのき裂進展速度評価法に関する研究 高橋 修 アスファルト舗装における構造上の破壊形態は,ひび割れである.ひび割れは,アスコン内に生じた微小なき裂の進展によって発生し,徐々に広がり目に見える損傷状況となる.そのため,ひび割れ抵抗性の評価として,き裂が発生してから破断するまでの進展過程やその影響因子といった,き裂伝播プロセスについて検討することは重要である. き裂伝播プロセスの評価指標として,き裂進展速度がある.アスコンのき裂進展速度は,クラックゲージを用いた曲げ疲労試験よって得ることができる.しかし,この試験は供試体の準備に手間がかかり,疲労破壊に至るまでの載荷方法も含め,試験終了までに長い時間を要する.さらに,試験装置も大規模となり,複雑で高価な試験法の一つに位置づけられる. 海外に目を向けると,ひび割れ抵抗性の評価を目的としている半円形供試体曲げ試験(Semi-Circular Bending Test,以下SCB試験)がある.この試験は,欧州標準化委員会で策定された規格(以下EN)や米国のASTM規格, AASHTO規格で規定されている.各規格において,試験温度,疑似き裂の寸法,試験装置の仕様が異なり,評価指標についても様々なものがある.しかしながら,わが国において,SCB試験は舗装調査・試験法便覧に記載されておらず,基礎研究や試行事例等の実績,知見も見当たらない.しかし,試験法が簡便であることの優位性を考えると,アスコンのき裂伝播プロセスの評価法として有望か否かを検討する価値はある. そこで本研究では,ひび割れ抵抗性能の異なるアスコンに対して曲げ疲労試験を実施し,それらのき裂進展速度を比較した.その後,同一条件の供試体を用いてSCB試験を行い,その結果と曲げ疲労試験から求めたき裂進展速度の結果を比較し,これらの相関性を評価した.そして,SCB試験によってアスコンのき裂進展速度を評価することが出来る評価パラメータを提案することを目的とした. SCB試験よる荷重−変位曲線の積分値であるGfがAASHTO規格等で評価パラメータとして用いられているが,Gfとき裂進展速度との相関は得られなかった.そこで,SCB試験におけるき裂の進展挙動の差異をとらえる指標として,荷重−変位曲線のピーク値以降の傾きmsについて着目した.き裂進展速度とmsには非常に高い相関があり,msを比較することでき裂進展プロセスを評価できるものと考えられる.また,曲げ疲労試験より得られるき裂発生までの回数と,SCB試験から得られた荷重−変位曲線のピーク値以前の傾きmfを比較したところ,両者に高い相関が認められ,mfによってひび割れ抵抗性を評価できた.