野沢 圭 水害に備えるためのリスクコミュニケーションツールの開発と評価 松田 曜子 水害に備えるには,ハード対策だけでなく,住民や行政が行う防災・避難訓練といったソフトの対策も重要である.災害に強い社会を築くためには,地域防災に係る当事者(住民と行政)が互いの信頼関係のもと,地域における災害リスクに関する危険性や課題について認識を共有し,それに対する解決策を講じながら合意形成を図っていく,いわゆるリスク・コミュニケーションが必要不可欠である(片田,2007).またリスクコミュニケーションを円滑に進めるために用いられるハザードマップ等の資料はリスクコミュニケーションツールと呼ばれる. 本研究で対象とする東川口地域でも,水害に関するいくつかのツールが作成され,水害を想定した避難訓練の際には参加した住民に展示資料として提供された.そこで本研究では,東川口において使用された5つのリスクコミュニケーションツールの比較を行うことで,それぞれの持つ特性や問題点等について考察を行った.またRowan.K.E(1992)が提唱したリスクコミュニケーションのCAUSEモデルを用いて,リスクコミュニケーションの段階に合ったツールの運用方法についても考察を行った. 本研究では「東川口防災クイズ」,「ドライブレコーダーの映像」,「昨年のアンケート結果」,「気象情報入手の手引き」,「魚野川浸水想定区域図」という5つのツールについて,アンケート調査を行った.アンケートではCAUSEモデルの2〜4段階目にあたる「水害のリスクへの気づき」,「水害のリスクへの理解」,「とるべき行動の理解」という3つをそれぞれのツールを通して理解できたかを5段階評価で東川口の住民に回答してもらった.この結果から「ドライブレコーダーの映像」は「水害のリスクへの気づき」において高い評価を得たことがわかり,平均値の差の検定においても有意な差がみられたことから,このツールが「リスクへの気づき」に効果的な働きをすることが分かった.他のツールについても同様にアンケート結果からリスクコミュニケーションツールの効果的な運用法や問題点などの考察を行った.