新田 晟也 コンクリート構造物の診断における臨床学的方法論の適用 下村 匠 わが国では,コンクリート構造物の劣化や変状に関する研究が進み知見が蓄積されている.構造物に対する変状がどのようなメカニズムで発生していき,構造物を劣化させるのか, 様々な研究がされており,各劣化現象に関する情報は多数ある.しかし,実際の構造物の維持管理で必要なことは,構造物に生じた変状から劣化原因を突き止め,劣化の進行度を判定し,適切な対策を施すことである.一方,医療はまさにその流れである.患者の症状や様態や検査から病気の原因を突き止め,必要な治療を施す流れで知見が体系化されている.本研究では,医療における診断方法をコンクリート構造物の診断に適用し,コンクリート構造物に生じる変状から劣化現象,健全度判定を行うことのできる診断システムの構築を目的に,劣化現象のメカニズムの整理と問診票の作成,作成した診断システムに対して実用性の検討を行った. 医療における診断手順とコンクリート構造物の診断手順は類似しており,問診票の項目も対応させることができるため,臨床学的方法論を参考に再構築することができると考えられる.構造物に生じた変状に対して劣化現象のメカニズムを用いたフィルターの設定をし,劣化現象の推定を行うことができる診断システムを作成する.健全度の判定には,コンクリート標準示方書等,外観からの健全度をある程度定量的に判定できるひび割れ幅を用いる.診断システムをフローチャートによって作成することで,フローチャートが正しい手順かどうか判定しやすい.フローチャートのインプットにひび割れ幅を用いることで,劣化現象の推定と健全度判定を同時に行うことができると考えた. 作成した診断システムに対して,実用性の検討を行い,コンクリート診断士の診断結果と比較を行った.全5Caseにおける診断システムの実用を本研究室の修士学生8名を対象に行っていただいた.単独劣化に対して,診断システムの結果がコンクリート診断士と同様の診断結果を得ることで,システムの実用性を確かめるとともに,複数名が同じ構造物に対して同判定を行うことで診断プログラムの使用性も認めることができた.また,複合劣化による劣化機構の変状が複数同時に作用している場合においてもコンクリ-ト診断士の判定と同様の結果が得られるように劣化メカニズムと診断項目の検討を再度行う必要性があると考える.