佐藤 大悟 腐食損傷の生じたトラス部材の耐荷力に関する解析的研究 岩崎 英冶 周知の通り,現在既設インフラの高齢化が進んでいる.日本においてもその多くは半世紀前の高度経済成長期に集中して建設されたものであり,既設インフラが一斉に寿命を迎えることで,それらの早急な補修が必要である.橋梁においても経年劣化が顕著に現れてきているが,老朽化した橋梁の急増に対してそれらの補修工事が追いついていない現状にあり,補修工事の優先度の明確化とより効果的かつ効率的な維持管理方法が求められている.こうした背景から,近年では鋼トラス橋梁のリダンダンシーに重大な関心が寄せられ,リダンダンシー検討に関する多くの研究が報告されるようになった. しかしながら,その多くは劣化による部材破断時の橋梁全体への影響を検討したものである.部材によっては局所的に腐食が進行するだけでも耐荷性能が低下し,全体の安全性に影響を及ぼす可能性がある.橋梁の部材に着目し,局所的な腐食損傷が部材の耐荷性能に与える影響についてまとめた研究は事例が少なく,知見が浅い現状にある. そこで本研究では鋼トラス橋を対象に,FEM解析により腐食により部材に局所的に損傷が生じた場合の耐荷性能への影響の検証と検証結果から一定の腐食が生じたトラス部材の安全性を把握する簡易評価式の提案を目的とし,腐食損傷したトラス橋のリダンダンシー検討について一助となり得る知見を求めた.本研究より,以下のことが明らかになった. ・対象部材のモデル化を行う際,部材全体を再現したモデルと計算時間の短縮を図るために局部座屈する板だけを切り出したモデルを用意し同様の解析を実施した.その結果,いずれのモデルパターンにおいても解析結果は殆ど変わらなかった.この結果から,部材全体の座屈応力度が計算できれば後は板だけの簡略化したモデルで解析を進めることが可能とわかった. ・局部座屈の先行の危険が高い部材の特徴は,部材を構成する鋼板の幅厚比(b/t)が大きく,部材全体の細長比(l/r)が小さいもの,即ち部材の既知パラメータ(b/t)/(l/r)の値が高いものであることがわかった. ・FEM解析の実施により,トラス橋において部材のパラメータ(b/t)/(l/r)を計測する事で,発生している溶接切れ長さが局部座屈先行を引き起こす危険があるかどうか判断する事が出来る簡易評価式を提案した.