塚田佳樹 上下浜海岸におけるカスプ地形の生成要因に関する研究 犬飼直之(細山田得三) 日本は,国土の大きさに対し海岸線が長く,多種多様な海岸が形成されている,また,海岸は海水浴や浜遊び,釣りなどの人気なスポットになっているが,その一方で,様々な水難事故が発生している.その多くは遊泳中の事故であるが,陸上で浜遊び中に高波にさらわれるといった水難事故も発生している.新潟県内においても平成26年5月4日に,海底勾配が急である新潟県上越市柿崎区上下浜海岸において,突然高波が襲来し海岸を遡上したことで子供3名が海へ流され,救助に向かった大人2名を含め5名が溺死する事故が発生した. 陸上で浜遊びをしているとき,前浜を駆け上がる波によってさらわれたため,事故が発生した海浜地形と深く関係していると考えられる.既往研究で報告された危険な遡上波を引き起こす波浪条件はどのような気象条件において発生し得るのか.また,上記の水難事故が発生した海岸の特徴的な2段のカスプはどのような波浪条件との関係によって生成されているのか把握する必要がある. そこで本研究では,事故原因解明および上下浜におけるカスプ地形生成の要因把握を目的として,推算式を用いた上下浜におけるカスプ地形,波浪および気象との関係について検討した. 上下浜海岸から最寄りの直江津港における波浪観測データと天気図を用いて,2005~2014年に有義波周期が7sec以上観測したときの波浪状況と気圧配置を関連付けた.大人が転倒するほどの遡上波が発生し得る波浪状況を引き起こす天気図として,高気圧東進パターンおよび寄り回り波パターンが主に挙げられた.そのうち,高気圧東進パターンは移動性高気圧によるものが多く好天で,等圧線の間隔も広く波高も発達しにくい.海岸に近づくのが容易に想像できるが,上下浜のような急勾配海浜においては注意が必要な気象および波浪といえる. 上下浜の2段目のカスプを生成する波浪条件は,出現頻度は多くないものの,その地形は波が暴浪状態とならない限り維持されていると考えられる.有義波高H1/3=1.2m程度のときの一般的な波浪状態によって,上下浜の2段目のカスプが形成された可能性が高い. 1段目のカスプは調査当時,遡上波による作用を受けていた.調査当時の波浪で生成されたとすると,2段目のカスプ形成位置の海浜堆積物の粒径よりも小さい粒径である必要がある.上下浜における海浜堆積物の粒径分布が汀線からの位置で異なり,1段目のカスプ生成要因と関係している可能性がある.