対島宏洋 2016年熊本地震により被害を受けた道路橋梁架設地点の地震動推定 池田隆明 2016年熊本地震により,熊本県道28号線の土木構造物に大きな被害が発生した.本震への影響が支配的であると考えられる布田川断層帯は県道28号線に沿って位置しており,多くの地点で右横ずれの地表断層が確認されている.しかし,大切畑大橋周辺では地表断層が確認されていないことから,地震動による影響が支配的であると考えられるので大切畑大橋を対象地点とし,強震動予測手法の1つである経験的グリーン関数法を用いたフォワードモデリングや常時微動のH/Vスペクトル比を用いた地震動の補正を行い大切畑大橋架設地点での地震動の推定を行う. 本研究は熊本地震本震の大切畑大橋の地震動推定が目的であり,本震への影響が支配的とされる布田川断層のみを考慮するため,1枚の断層面でモデル化を行い,震源近傍で観測した震源メカニズムや震源の深さなどが本震と似ている小地震を要素地震とした.また,経験的グリーン関数法で用いる強震動生成域(以下,SMGA)は,複数の研究者が報告している波形インバージョンにより得られた最終すべり量を参考にして,すべり量の大きいところにSMGAを配置した初期モデルを作成し,合成波形と観測波形の一致度に基づき,SMGAの位置や大きさ,破壊開始点を調整することで熊本地震の震源モデルを作成した. 対象地点の大切畑大橋には地震観測記録が無いため,K-NET,KiK-netなど周辺の地震観測点の記録を常時微動のH/Vスペクトル比を用いた補正をすることで,大切畑大橋の地震動を作成した.この地震動を要素地震として再び経験的グリーン関数法を用いることで大切畑大橋架設地点での熊本地震本震の地震動を推定することができる. 推定した地震動の加速度応答スペクトルを計算し,平成8年の道路橋示方書に基づいた設計スペクトルと比較をすることで,大切畑大橋の被害原因を推定することができる.この検証を行った結果,0.2〜0.4秒前後では加速度応答スペクトルは設計スペクトルを大きく上回っていたが,大切畑大橋の固有周期である1.6秒周辺では地震動の加速度応答スペクトルは設計スペクトルを下回っていた.この結果より,地震動により被害を受けた可能性もあるが,固有周期での加速度応答スペクトルの値が設計スペクトルを下回っているため,他の要因の可能性があることが分かった.