本間彩香
コンクリート技術史から見た長岡市旧中島浄水場配水塔の考究
下村匠
長岡市水道公園にある配水塔は,大正11年に設計され,昭和2年に竣工した鉄筋コンクリート構造物である.昭和2年の竣工から平成5年の中島浄水場運転休止まで長岡市の上水道施設として利用された.竣工から89年経過した現在では,水道公園の施設の一部として使用されている.本配水塔は,平成10年に有形文化財に登録されたこともあり,文化的価値のある建造物である.また,平成16年の新潟県中越地震や平成19年の中越沖地震などの多数の大きな震災にも崩壊することがなかった.そのため,コンクリート技術史から見て現存する貴重な構造物であり,設計・施工技術を明らかにすることは有意義な研究である.
本研究目的では,長岡市旧中島浄水場配水塔の設計当時と現在の設計・施工技術を対比させて考察することである.そこで,当時の設計計算書から設計計算を再現し,当時の設計を明らかにすることと,施工時の写真や記事から,施工技術の検証を行った.また,現行の設計基準による本配水塔の耐震性能照査を行った.
設計計算書をもとにした再現計算では,地震動を考慮していない計算方法が明らかになった.施工技術の検証においては,当時と現在は機械類において大きく異なることが確認された.
現在の設計では耐震設計を必ず行うが,建設当時の設計では行われていなかったため,現行の設計基準による耐震性能照査方法を用いて,曲げモーメント・せん断力・帯鉄筋量に対する安全性の検討を行った.今回,耐震性能を照査する方法として,所要降伏震度スペクトルによる耐震性能照査を選定した,この照査方法では,配水塔を1自由度の構造物として捉えることで簡易に照査できる利点を有している.曲げモーメント・せん断力・帯鉄筋量に対する照査結果として,現行の設計基準では帯鉄筋量に関しては安全性を満たすことができなかったが,曲げモーメントとせん断力に関しては安全性を満たすことが確認された.
設計時に地震動を考慮しない設計と,現在より各段に劣る機械による施工技術で,現在も十分な耐久性を有することは,当時の技術レベルが非常に高いことを表していると考える.現行の照査で明らかになったように,現在のレベルも満たす項目があることは,配水塔が高い技術レベルで建設されたと考えられる
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