氏名:菊池慶一
論文題目:補修設計時の点検・積算における課題の整理およびLCC比較による対策選定の提案
指導教員:下村匠
新潟県を含む日本海側の地域では,多くの橋梁に深刻な塩害劣化が発生しており,今後これら橋梁の維持管理が必要とされる.現在,維持管理を行うにあたり,土木構造物にもライフサイクルコスト(LCC)の概念が導入され,橋梁の安全性を維持しつつ,LCC最小化を目指した効率的な維持管理が求められている.しかし,補修工事における点検・調査および積算には解決しなければならない課題があり,また,今後,多数の橋梁を維持管理していく上で,簡易的な維持管理方法の開発も必要とされている.そこで本研究では,点検・調査および積算における課題の整理を行った上で,劣化予測を含めたLCC比較による簡易的な維持管理方法の提案を行った.
まず,文献・ヒアリング調査によって補修工事における課題の整理を行い,その対策案の検討を行った.点検・調査においては,調査方法に規定がないこと,また,不確定要素の危険性の存在が明らかになった.これに対し,不確定要素の最小化のため,最低限の実施が望まれる調査方法や非破壊調査方法の技術精度の向上および開発,設計と工事の一括管理のマネジメント方法の対策案を示した.積算においては,補修工事用の歩掛整備が進んでいないため,実態と乖離した工事費で補修工事が実施されていることが判明した.これに対し,補修規模を見極めた上で,新潟県で使用されている補修工事用歩掛の採用と国土交通省公表の積算基準書における補修工事用歩掛の整備推進の対策案を示した.
次に,仮想橋を用いたLCC比較による対策選定の維持管理方法の提案を行った.表面塩化物イオン濃度を数パターン設定し,劣化にばらつきを持たせることで,塩害環境が維持管理方法に与える影響についても検討を行った.実橋梁との比較検討において,提案した維持管理方法は補修時期と工事費についての推定精度があることが確認された.また,塩害環境が厳しい地域では予防保全的,穏やかな地域では事後補修的な維持管理がLCC最小化に資することが示された.ここで,今後の課題として,維持管理方法の推定精度向上と妥当性の検討を行うために,RC橋を含めた実橋梁とのさらなる比較検討が必要であることが示唆された.
最後に,新潟県沿岸部において飛来塩分量調査を実施し,提案した維持管理方法との整理を行うことで,新潟県における維持管理方法の検討を行った.結果として,RC橋とPC橋の各構造種別に応じて,海岸からの距離によって予防保全的または事後補修的維持管理を使い分けることでLCC最小化の観点から合理的な維持管理を実施することが可能になることが示された.
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