ken15602

大原　涼平

貫通・非貫通ひび割れを有するコンクリート中における水蒸気の拡散透過

下村　匠

　コンクリート構造物にひび割れが生じることによりコンクリートの物質透過抵抗性が損なわれ，塩害などの経時的な劣化に対する抵抗性が低下し構造物の耐久性に影響を及ぼす．本研究の目的は，コンクリート中の物質透過現象に関し，ひび割れ形状がひび割れ内の物質移動に及ぼす影響とひび割れ表面における物質伝達特性を評価することである．貫通・非貫通ひび割れを有するコンクリートの水分透過実験を行い，2次元水分移動数値シミュレーションと比較することで，既往の研究で提案された仮定の妥当性を検討した．
　最初に，ひび割れ幅とひび割れ深さを変化させた貫通・非貫通ひび割れを有するコンクリート供試体を用いた水分透過実験を行った結果，ひび割れ形状がコンクリート中の水分移動に及ぼす影響について以下のことが確認された．①ひび割れ形状にかかわらず，ひび割れが存在することにより，コンクリート中の物質透過抵抗性は低下する傾向を示すこと．②ひび割れ深さの大きさにかかわらず，ひび割れ幅が増加すると供試体を透過する水分流束は増加する傾向を示すこと．
　次に，既往の研究により定式化されたコンクリート中およびひび割れ部分の水分移動モデルを貫通・非貫通ひび割れを有するコンクリート中の2次元水分移動解析に適用できるよう整理し，水分透過実験結果の再現解析を行った結果，以下のことが確認された．①貫通・非貫通ひび割れを有するコンクリート中の2次元水分移動解析を用いて，水分透過実験の傾向を再現可能である．②ひび割れ表面とひび割れ内空間との間の水分伝達の有無が水分流束に及ぼす影響を明らかにする必要がある．
　最後に，整理した2次元水分移動解析による各供試体のひび割れ表面の境界層の同定とひび割れ表面の境界層の感度解析を行った結果，以下のことが確認された．①水分透過実験において過大な水分流束が計測されたため，ほとんどの供試体でひび割れ表面の境界層を同定することができなかった．②ひび割れ表面での水分伝達特性は，大気と接する面での水分伝達特性と異なること．
　今後の課題として，水分透過実験の供試体の設置環境の改善による計測精度の向上とより多くの実験結果に基づいたひび割れ表面の水分伝達特性の幅広い検証，2次元水分移動解析を拡散透過のみならず吸水や圧力透過に適用することが挙げられる．

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