田中 幹基

腐食損傷した鋼部材接合部におけるCFRP補修の検討

宮下剛 准教授

鋼構造物の劣化要因の大半は腐食であり,その中でも,伸縮継手からの漏水に起因する腐食事例が多く報告されている.その腐食事例の1つとして,鋼部材接合部において貫通孔が生じるケースが報告されており,補修による断面性能回復が求められる.従来の補修方法として当て板補修が挙げられるが,ボルト孔により純断面積を減少させるため,損傷が著しい場合は好ましくない.そこで,既存構造物を傷めることなく補修できる炭素繊維シート補修(以下,CFRP補修)が望まれる.既往の研究により,CFRP補修で圧縮耐荷力が健全部と同等以上まで回復することが確認されているが,引張力を受けるケースに関しては検討された例はない.補修として,初期段階への構造性能回復を考えると,欠損部の引張剛性を健全部と同等以上まで回復させることで,溶接ビードと同等の機能回復が求められる.
本研究では,腐食損傷した鋼部材接合部において,CFRP補修を施し,溶接ビードの機能を回復させることを目的として,実構造物の損傷状況を模擬した試験体にCFRP補修を施し,単純引張試験を行う.この際,鋼部材接合部にエポキシパテ材を成形し,それに沿ってCFRPを下フランジに定着させるケース,CFRPを溶接止端部まで伸ばして貼り付けるケースの2種類の検討を行った.
引張試験の結果,いずれの場合においても欠損部の剛性を健全部と同等まで回復させることはできなかった.前者の場合は,CFRPを曲線に貼り付けたことにより,荷重が分散され,荷重伝達効率が低下した.後者の場合は,CFRPの下端部がはく離したことにより,荷重伝達効率が低下した.
そこで,追加検討として,はく離抵抗力および荷重伝達効率を改善させることを目的として,コンクリート構造物において,CFRPの端部定着材料として用いられているCFアンカーを使用して,腐食損傷を模擬した鋼部材接合部の補修を行い,引張試験を行った.
 引張試験の結果,欠損部の剛性を健全部と同等まで回復させることはできなかった.この原因は,CFアンカーの折り曲げを防止するために,テーパーを設けたことにより,荷重伝達効率が低下したことによる.改善策として,CFRPの上からCFアンカーを貼り付けることにより,テーパーを廃止し,荷重伝達効率を向上させる方法が挙げられる.この検討に関しては,今後の課題とする.

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