PHAM VAN HUNG

シールド機動力学モデルによるH&Vシールドの挙動解析

杉本 光隆

東京都品川区を流れる立会川は,川幅8m,延長750mの中小河川である.流域のほとんどは市街化され,雨水の大部分は下水道を通じて短時間に河川に流出し,一度溢れると甚大な浸水被害となる.また,合流式下水道からの雨天時の放流により河川および運河に水質悪化や悪臭の影響が見られ,その改善が大きな課題となっている.これらの対策として,立会川へ放流されている雨水を取り込み,京浜運河へ放流先を変更するための「立会川幹線雨水放流管」を布設することとなった.「立会川幹線雨水放流管」は,狭隘な河川内かつ地下埋設物が輻輳している箇所へ布設する必要があるため,平面・縦断において厳しい条件下で施工することが求められる.そのため,通常のシールドを用いた設計では流下能力を満たした断面の確保ができない.そこで,限られた占用スペースの中で最大限の流下能力を確保できる工法としてH&V工法によるスパイラル掘進が選定された.
H&Vシールド工法の施工実績は,これまで5件報告されており,4件が分離型で,スパイラル型の施工実績は実証実験の1件のみである.実証実験は,シールド外径が2.12mと小さく,スパイラル中心が両トンネルの2等分点であった.一方,本工事はシールド外径が5.85mと大きく,スパイラル中心が左側トンネル中心で,右側トンネルのみが左側トンネルの回りをスパイラルすることから,非常に難しい施工条件である.また,既往の検討により,スパイラル掘進時に必要な余掘り量は400mmとなることがわかった.当該トンネルは河川下に位置するため,余掘り量400mmで掘進すると河川構造物や近隣民家への影響が懸念される.さらに,三次元曲線のトンネル線形であるため,掘進時における地盤反力の確保やジャッキ推力によりセグメントが変位・変形したり,線形維持が困難になったりすることが考えられる.以上の課題を解決するため,H&Vシールドの挙動をシミュレーションすることによりシールドの制御方法を事前に把握することが必要となる.
本研究では,H&Vシールドシミュレーターによるシールド制御方法の事前把握を目的として,当該トンネルを解析対象とし,シールド掘進管理条件を用いてシールド掘進シミュレーションを実施した.本シミュレーションにより,スパイラル掘進時の適切なジャッキ力や余掘り量と範囲,中折れ角を把握するとともに,シールド接合部の作用力を算出しシールドの設計に反映する.

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