小川 和真

狭い砕波帯をもつ砂浜海岸を遡上する波浪の挙動

犬飼 直之 (細山田 得三)

四方を海に囲まれた我が国は,総面積約377,900km2に対して,海岸線の総延長距離35,000kmと国土の大きさに対して非常に長い距離の海岸線を有している.砕波帯が狭い海岸では陸上で浜遊び中に波に攫われるといった水難事故が発生しているのも事実であり,新潟県内においても平成26年5月4日に,新潟県上越市柿崎区上下浜海岸において,突然高い波浪が襲来して海岸を遡上したことで子供3名が海へ流され,救助に向かった大人2名を含め5名が死亡する事故が発生した.以上のことから,今後の海浜での水難事故防止のためにも離岸流等の海中だけでなく狭い砕波帯を持つ砂浜海岸での陸上を遡上する波浪の挙動把握が必要不可欠であると考える.
本研究では狭い砕波帯を持つ砂浜海岸を遡上する波浪の挙動の把握を目的として,上下浜を対象とし,現地調査や波浪解析,CADMAS-SURFによる数値計算を実施した.
事故時の有義波高1.2mに対して有義周期7.9秒は比較的長めの周期であった.事故発生時の周期が長くなった原因として,事故当日は高気圧が日本海を東進しており,長距離の風の吹走パターンが長時間に渡り続いたことが原因であるとわかった.
周波数別解析データから作成した波形は,不規則波となり,波高0.23m〜2.08mの範囲で非定常に挙動することがわかった.
平面2次元数値モデルで定性的には現地の波浪の遡上の挙動を再現可能であった.また,カスプの褶曲の窪地付近へ流れが集中し櫛状に流下する現象を確認できた.
鉛直2次元数値モデルにおいて,有義波高時は 陸上への遡上距離では,27m程度,最大波高時で34m程度であった.また第1波の最大水位は有義波高時で汀線から陸上側5m付近で最大40cm程度,第2波以降では汀線から5m地点で1m程度,それより陸上側では50cm程度,最大波高時で汀線から陸上側5m付近で最大70cm程度,第2波以降では汀線から5m地点で1m程度,汀線から10m地点で1.3m程度,それより陸上側では40cm程度の水位であった.また,波浪が遡上する最大流速は有義波高時で秒速6m程度,最大波高時で秒速8m程度であった.
今回対象とした水難事故は海水浴場ではない砂浜海岸上で発生した事故であり,砕波帯が狭い海岸においては,たとえ水中でない砂浜上であっても,波が急に砂浜を遡上し,水中へ流出する事もあるので注意が必要である.

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