上野克典

貨物輸送における時間価値の推定

佐野可寸志 西内裕晶

交通における時間価値とは走行時間を1分短縮することに対する支払意思額を示す.時間価値は交通時間短縮を目的とする交通投資プロジェクトや交通政策から生じる便益を評価する上で重要な役割を果たす.旅客交通の時間価値の計測方法はおおむね確立されている一方で,貨物輸送の時間価値の時間価値の計測手法については確立されているとは言えないとされ,貨物輸送の時間価値の計測に関する知見は乏しい.時間価値を計測する手法として,要素費用アプローチと需要モデルアプローチに大別される.需要モデルアプローチとは貨物流動の実態を反映した需要モデルに基づき,計測する手法である.このアプローチは集計されたデータを用いる集計モデルと個々のデータとして扱う非集計モデルに分類され,集計モデルよりも非集計モデルの方に有意性があるとされる.
本研究では,需要モデルアプローチの非集計モデルを用いて新潟市〜関東地方間の貨物輸送を行う貨物車の時間価値を推定し,要素費用アプローチによる時間価値と比較することで,需要モデルアプローチの有意性を確認する.
道路交通センサス,ETC2.0履歴情報,新潟県トラック協会に所属する事業所を対象に実施した経路選択に関するアンケートの3種類のデータを用いて,貨物輸送を行う際,高速道路・一般道路のどちらを利用するかの経路選択行動に関する二項ロジットモデルを走行距離,所要時間,走行費用を共通変数,各データ別の個人属性を加味し,モデルを推定した.
ETC2.0走行履歴情報,経路選択に関するアンケートを用いたモデルの推定結果は各説明変数で合理的な解釈が可能であったが,時間価値の推定に用いる所要時間と走行費用の説明変数が有意なものはアンケート調査を用いたモデルであった.有意であるアンケート調査により推定された時間価値を本研究における需要モデルアプローチの時間価値とし,営業用普通貨物車の時間価値は43.69[円/分]であった.要素費用アプローチによる営業用普通貨物車の時間価値53.61[円/分]と比較するとおよそ10[円/分]の差が見られた.時間価値の差が見られた要因としては,本研究で用いた変数のみでは実際の貨物流動を表現することができなかったと考える.これにより,本研究では需要モデルアプローチの利点を活かしたモデルの構築まで至らなかったが,需要モデルアプローチの利点である様々な変数を考慮することで実際の貨物流動を表現できることが窺えた.そのため,需要モデルアプローチの有意性を確認することができたと考える.

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