時田政輝

中国大陸における水文気象データの作成と初歩的な解析

陸旻皎

中国大陸では,近年異常気象が続いており,非常に不安定な気象状態である.毎年3億8千万人の人々が自然災害の影響を受け,4800万haの農地が被害を受け,経済的な損失はおよそ3兆6千億とも言われている.被害を抑制するためには現状を把握し,中国における気象状況を鮮明にする必要がある.本研究では中国大陸における年間の降水量,流出高,実蒸発量,流出率,パン蒸発量の実データから水文気象データを作成し簡易な解析を行い,地域ごとの気象状況の特色を考察した.水文気象データの作成については(株)日本工営より開発されたGISソフト「NK-GIAS」を使用し水文気象データを作成した.
中国北西部は, 砂漠地帯が広がっており,降水があっても土壌に吸収されて流出量がほとんど発生しない.降水量も少ない為,実蒸発量, 流出率ともに小さい.南東部にかけて降水量も徐々に増え,流出量,実蒸発量も増えるが,実蒸発量が頭打ちとなり,流出量,流出率が増加する.以上から,北西部では実蒸発量は降水量に影響され,南東部では日射量などの気象要因で決まるポテンシャル蒸発量が影響していることを示している.また,北東部では,降水量は多くはないが,流出率が高く,日射量の減少によるポテンシャル蒸発量の減少が要因だと思われる.
従って,中国の蒸発量と流出高の分布特性を理解するには,ポテンシャル蒸発量が重要であるが,これの推定には多くの気象観測データが必要であり,困難である.そこで高い相関関係を持つとされているパン蒸発量に変換係数をかけて推定する.この変換係数を求めるために,広く検証されているBudykoフレームワークの式を利用して推定することにした.この式から変換係数について誘導し,誘導できなかったものは最適化分析により推定した.
今回求められた変換係数は0.5~0.6となった.一般的に変換係数は0.6~0.7とされているが,中国では他と比べパン蒸発量が高い値を示すことが知られていることから同程度の値を示したといえる.
今回,中国本土の気候傾向を示したグリッドデータを作成した.現在中国の流出高を示した画像は少ない為,それを使用することで詳細な水文データの作成が期待出来る.ポテンシャル蒸発量は明確な式での定義が難しいため,パン蒸発量からポテンシャル蒸発量への変換係数で求めることが可能である.

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