小池 進太郎
水田の貯留効果を考慮した洪水緩和機能の検討
陸 旻皎
現在,検討されている洪水対策の一つとして水田の貯留能力が注目されている.水田に降雨を貯め,河川への流出を制限することにより,降雨による流出量増加を抑えることができる.本研究では信濃川水系の一次河川である五十嵐川を対象に,水田の持つ貯留能力がどのような影響を与えているか調査をし,水田の貯留能力がどの程度洪水に対して効果を発揮するのか試算した.はじめに新潟県から提供していただいた河川整備計画の資料を参考に五十嵐川の流出解析モデルを作成した.次に,流域に存在する水田を航空写真,数値地図から作成し,各小流域がもつ水田面積を明らかにした.石井らが考案した水田貯留モデルを用いることで,作成した流出解析モデルで水田の流出を表現できるようにした.
水田の洪水対策に「田んぼダム」と呼ばれる事業がある.水田の排水口の口径を狭めることで水田に降雨を貯め,河川への流出を制限する.そして降雨による流出量増加を抑えることができる.しかし,「田んぼダム」の仕組み上,排水口の口径が常に小さい状態であるため雨の降り始めから流出を抑制して降雨を貯留してしまう.そして降雨がピークに達するころには水田の水位が上がってしまい貯留能力が弱まり効果的に降雨ピークを貯留できているとはいえない.任意のタイミングで通常の放流と「田んぼダム」を切り替えられるように水田貯留モデルを改良し,降雨ピークを効果的に貯留できないか検討を行った.まず,五十嵐川河川整備計画にある計画規模1/100の降雨を対象に流出解析を行い,五十嵐川では累積雨量が200mmを超過すると河川が危険な状況になると判明した.そのため累積雨量200mmを超えた場合,水田に降雨を貯留する条件設定を行い,流出解析を行ったところ,最大で130m3/sの流出量の減少がみられた.そして実際に観測された平成16年新潟・福島豪雨と平成23年新潟・福島豪雨の二つに同条件で流出解析を行ったところ,平成16年新潟・福島豪雨では最大で80m3/s,平成23年新潟・福島豪雨では流出量が最大で95 m3/s減少した.現在の五十嵐川では遊水地の建設を行っており,最大で130m3/sの流出量の減少が見込まれている.今回の結果から「田んぼダム」の貯留能力が遊水地にせまる性能だということが確認できた.今後は水利権の問題や水田の所有者との間に発生する地役権の問題で「田んぼダム」がどのように扱われるのかを検討していく必要がある.
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