田邊純也

ステンレス鉄筋を用いたRC部材の鉄筋腐食後の載荷性状

下村匠

鉄筋コンクリート(RC)構造の耐久性を損なう最大の問題は,塩化物イオンが鉄筋を腐食させ,美観や耐力の低下を引き起こすことである.ステンレス鉄筋は,構成成分であるCrが酸化することで,不動態被膜を形成するため耐食性に優れる.この耐食性ゆえ腐食した場合を想定した研究は前例がない.しかしながら,腐食した場合に構造物に及ぼす影響の把握は,普及を進める上で不可欠であると考え,本研究を実施した.
事前実験として,裸筋状態のステンレス鉄筋における電食試験を行った.この結果,電食法でステンレス鉄筋が腐食状態になること及び,クエン酸水素二アンモニウム水溶液によって適切に除錆できることを確認した.また,腐食量と積算電流量に線形関係がみられ,電食係数0.897を得た.
ステンレス鉄筋を用いたRC部材において,既往の研究であるBMT(BenchMarkTest)に準拠して電食試験を実施し,普通鉄筋における結果と比較した.ステンレス鉄筋の腐食形態は,局部的な損失が見られた普通鉄筋とは異なり,孔食が広範囲に発生するものであった.この原因は,ステンレス鉄筋の不動態被膜が強固なため,塩化物イオンによる破壊が狭い範囲に限定されるためだと考えられる.また,腐食ひび割れ幅が普通鉄筋の場合と比べて大きく,広域にわたった.これは,腐食形態が孔食であるため,腐食量に伴う体積の膨張量が大きくなったこと及び,供試体作成精度が低かったことが原因だと考えられる.
電食試験後の供試体を用いてBMTに準拠した載荷試験を実施し,普通鉄筋の場合と比較した.本実験における破壊モードは,鉄筋降伏後の定着部破壊となり,普通鉄筋の破壊モードとは異なるものになった.この原因は,大きな腐食ひび割れが定着部まで到達していたこと及び,スターラップに沿った腐食ひび割れが発生していたためだと考えられる.また,健全時の終局荷重と腐食時の終局荷重における比である終局荷重比を用いた比較も行った.終局荷重比‐質量減少率関係では,両者とも概ね同様な傾向がみられた.しかしながら,終局荷重比‐断面減少率関係では,本実験の結果が下回る傾向が確認された.この要因としては,腐食形態が孔食であるため,実際の断面の減少量に比べて断面の減少量が小さく見積もられたためだと考えられる.加えて,本実験は全体を通して耐力低下が大きい傾向がみられた.これは,コンクリートが圧縮破壊する前に鉄筋定着部で破壊が生じたため,荷重が増加しきらなかったためだと考えられる.

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