高橋章

鉄筋による拘束状態がアルカリシリカ反応によるRC床版の劣化に与える影響

下村匠

近年,アルカリシリカ反応(以下ASR)に起因すると思われる道路橋梁における床版の劣化事例が報告されている.ASRによるひび割れは鋼材腐食の発生や景観・美観の損失を招くだけでなく,コンクリートの強度低下,鉄筋とかぶりの付着力の低下,曲げ加工部や圧接部での鉄筋破断などの損傷の要因になることが知られているが,ASRが生じたRC床版の耐荷性能に関する研究事例は少ない.
本研究では,ASRが進行したRC床版の構造性能を検討する為,ASRを促進させたRC床版と,比較用の健全RC床版を作製し,静的載荷試験を実施することで,ASRの進行がRC床版の構造性能に及ぼす影響を実験的に検討した.小林らの行った配筋の異なる試験体の結果を本実験結果とあわせて比較することで,床版内部の配筋の違いによる耐力低下の影響について検討を行った.
また,鉄筋による拘束がASR試験体に与える影響について要素レベルでの挙動を確認するため,拘束を与えたASR試験体を作製し,圧縮強度試験およびに弾性係数試験を実施することで,鉄筋による拘束状態がASRによる物性値の経時変化に与える影響を検討した.
主鉄筋を上下2段に配置したASR床版の静的載荷試験より,ASR劣化が進行することでコンクリートの物性値には顕著な低下が生じるものの,シングル配筋のASR床版の静的載荷試験の際にみられた,静的耐力の大きな低下は生じなかった.また,主鉄筋を上下2段で配置することで床版断面内の膨張量の分布が少なくなり,シングル配筋で見られた床版の変形を抑えることができた.
拘束試験体を用いた実験では,自由膨張量3000μ程度の劣化段階では弾性係数の低下は生じず,むしろ1割ほど増加するといった結果が得られた.また,RC床版のASR促進養生結果並びに拘束試験体を用いた実験より,大きな拘束を加えたASR試験体では拘束のない試験体と比較して,多くのひび割れが生じることがわかった.
本研究よりRC床版内部の鉄筋比を大きくし,膨張量の分布を抑えることで,床版の静的耐力の低下を抑えることができるが,同時に鉄筋拘束により,床版表面に多くのひび割れが生じるといった結果が得られた.床版の表面ひび割れの増加は内部への水分浸透など懸念事項もあるので,配筋の配慮だけで,ASRに対処することは現実的には難しい.ASRの発生防止が根本的な対策であり,その具体については今後の検討が必要である.

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