佐藤駿介
凍結防止剤散布によるコンクリート構造物の局所的な塩害の進行予測に関する研究
下村匠
積雪寒冷地では,冬季間に道路の路面凍結を防止する目的で凍結防止剤が頻繁に散布されており,山間部においてもコンクリート構造物の塩害事例が数多く報告される.凍結防止剤による塩害被害は,損傷個所が路面排水の流れる箇所や伸縮装置部の漏水箇所や,橋脚に設置された排水管の劣化箇所などにおいて局所的に発生するという特徴を有している.これらの塩害の進行は構造物表面の水分移動と密接な関係があり,構造物内部の劣化程度の推定には構造物表面の水の移動と構造物内部への塩分の浸透箇所や浸透量を正しく考慮することが重要とある.
以上から本論文では,凍結防止剤による塩害の進行を予測するために構造物表面における水の流れとそれに伴うコンクリート内部への塩分浸透のモデルの数値解析による再現方法を検討した.そして,これらの構造物表面の水の流動解析と塩分浸透解析の結果から,実構造物における外観の漏水痕と構造物内部の劣化程度の比較を行った.
構造物表面の水の流動解析は,室内実験と実構造物の劣化調査結果を対象に再現解析を行った.室内実験では橋脚上の排水管の劣化現象を再現し,流動解析によって形成される漏水痕の傾向を良好に再現できることが確認された.実構造物の劣化調査結果では,桁裏の目地劣化による漏水痕と排水管劣化に伴う漏水痕の再現解析を行った.桁裏の目地劣化に伴う漏水痕は,桁端部の支承や勾配の影響を考慮する適切な境界条件を与えることによってその傾向を再現できることが確認された.排水管劣化に伴う漏水痕の再現では,室内実験で得られたパラメータを与えることによってその傾向は再現できたが,水の流動が考慮される範囲以上に漏水痕が拡大していることが確認され,構造物表面の水の流れを考慮した内部への浸透解析の必要性が求められた.
劣化した排水管を有する実構造物を対象に,水分および塩分の浸透解析を行った.解析期間は凍結防止剤が散布されてからの期間を想定した10年間とした結果,外観に確認できる漏水痕範囲に対して,内部ではさらに塩分浸透の範囲が拡大している傾向が得られた.表面において高い塩分濃度が測定された構造物では,内部の鉄筋位置において発錆限界を超える塩分濃度を含んでいる危険性が確認された.以上より,構造物表面の水の流動と内部の浸透解析によって,構造物外観の漏水痕から内部の劣化程度を概算的に推定することが可能とされた.
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