松本 大樹
鋼部材の補修と状態把握を可能とするCFRPストランドセンサの基礎研究
宮下 剛
CFRPは軽量,高強度,高弾性,高耐食性など優れた特性を持つ.さらに,CFRPを構成する炭素繊維は電気導電性を有しており,その電気抵抗の変化を測定することで,剥離検知など自己診断機能を有するインテリジェント材料として期待されている.一方で,腐食した鋼構造物に対する効果的な補修・補強方法として,現場でCFRPシートを接着する工法が適用され始めている.しかし,この工法ではCFRPシートを鋼材表面に接着するため,疲労亀裂や腐食損傷など被接着物の状態が確認できなくなることが問題とされてきた.そこで,導電性を有する独立した炭素繊維ストランドから構成されるCFRPストランドシートを用いて,鋼部材を補修するとともに鋼部材の状態把握を可能とする方法について基礎的な検討を行う.
はじめに,炭素繊維ストランドに引張力を作用させると,その電気抵抗が増加することを実験を通じて確認した.ここで評価した炭素繊維ストランドは,ピッチ系の高弾性型,パン系の中弾性型,高強度型である.これらの中で,再現性や線形性が最も良かったのは,パン系の中弾性型であった.これをふまえ,被接着物の局部的な状態把握の検証を目的として,長さ1000mm,幅60mm,厚さ9mmの鋼板中央に幅方向の端から片側30mmのみに切断加工を施して各種CFRPストランドシートを接着貼付した.あわせて,切断位置のシート表面には検証用のひずみゲージも貼付した.本試験片で引張試験を実施したところ,切断側にある中弾性型のストランドの電気抵抗変化が,切断を施していない側に位置するストランドの電気抵抗と比して大きくなることが,ひずみゲージと同様に確認された.これは,一本ずつの炭素繊維ストランドが電気的に独立している炭素繊維ストランドシートがゆえに可能となる.また,炭素繊維シートを接着したことによる補修効果はこれまでと同様に得られた.ここでは,ストランド間の電気抵抗値のばらつきが問題となったが,端子を適切に設けて初期抵抗値を理論抵抗値に近くすれば良いことを明らかにし,予め数本のストランドのひずみ−電気抵抗関係を作成して電気抵抗値のばらつきを補正する方法も考案した.
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