濱 達矢

鋼橋における炭素繊維シートを用いた耐震補強工法の基礎研究

宮下 剛

現状,鋼橋の補修や補強では,当て板工法が採られているものの,施工に優れないという問題点がある.そこで,施工の効率化を目的に,炭素繊維シートを用いて鋼橋を補修する工法ならびに腐食部を補修する工法の開発を進めてきた.特に,後者の検討を通じて,鋼部材と炭素繊維シートの間に高伸度弾性パテ材を挿入することで,座屈変形による大変形に追従して強度が向上することが確認された.そこで,当て板工法が採用されている鋼橋の耐震補強に本工法を適用することで,応力低減,耐力向上,じん性向上などの効果が期待される.
本研究では,炭素繊維シート接着鋼柱の圧縮強度特性の把握を目的として,圧縮試験を行う.具体的には,炭素繊維シートによる補強の有無および高伸度弾性パテ材の挿入の有無を試験パラメータとして圧縮強度特性の比較より検討を行う.
圧縮試験の結果,高伸度弾性パテ材の有無に依らず,炭素繊維シートを10枚積層することで,耐荷力が約10%増加した.また,高伸度弾性パテ材を挿入した場合,崩壊時のじん性が確保されることを確認した.ただし,期待した耐荷力の約2/3程度に留まった.この原因を,炭素繊維シートの定着長,ずらし量の不足による応力伝達の不良と考え,追加検討として応力伝達を向上させるために炭素繊維シートの定着長,ずらし量をそれぞれ200mm,25mm確保したケースの圧縮試験を実施した.圧縮試験の結果,鋼板上のひずみは炭素繊維シートの積層による換算板厚増加分低減しており,部材の応力低減効果が期待できることを確認した.しかし,終局時の鋼板の局部座屈を十分に抑制することはできず,耐荷力の増加率は13%程度となった.                                                                   ■この結果より,本工法の基礎理論とした炭素繊維シートと鋼板の完全合成断面を仮定し,板厚増加分の鋼換算幅厚比パラメータを変化させる現在の設計法に再検討の余地があると言える.また,耐荷力の大幅な向上に成功している既往の論文で検討されている炭素繊維シートを周方向に巻きたてた鋼柱の圧縮試験を参考にフランジの突起部分を樹脂などより不陸修正を施し,炭素繊維シートを周方向に巻きたてる鋼柱の圧縮試験の検討を今後の課題とする.

前のページに戻るには"戻るボタン"で戻ってください。