鍋島 渉

実斜面を想定した緩衝金具を有する落石防護網の静的解析法に関する研究

岩崎 英冶

我が国の国土は急峻な地形が大部分を占めており、山間部に多くの集落や交通路が位置しているうえ、脆弱な地質が多く、世界有数の地震大国や豪雨など、厳しい自然環境下にある地域が多く、落石災害が多発している。そのため、落石災害の防止は経済活動及び安全確保の観点から、重要な問題となっており、全国に多くの落石対策工が施工されている。
落石防護工の一種である、緩衝金具を有する落石防護網は、エネルギー吸収性能とメンテナンス性に優れた落石防護網である。
緩衝金具を有する落石防護網の設計において重要となるのは、防護網全体のたわみと、各緩衝金具内のワイヤの滑り量である。防護網のたわみが大きい場合には道路などの軌道上の設計限界を犯してしまう可能性がある。また、緩衝金具内を滑動したワイヤが緩衝金具から抜けてしまった場合には防護網のそのものの機能が損なわれることとなるため、ワイヤ長は設計において非常に重要なパラメータとなる。
既往の研究では性能評価試験により得られた結果をもとに、落石が衝突した防護網の挙動を再現した動的応答解析モデルが開発され、性能評価試験に掛かる費用と時間の削減が可能となった。しかし、動的応答解析は解析時間が長くなるため、実規模を想定したモデルなどでは解析が困難であった。そのため、動的応答解析に要する膨大な解析時間の短縮を目的とした、動的応答解析とエネルギー的に等価な静的解析法が提案され、静的解析による滑り量とたわみの評価が可能となった。しかし、それらの解析モデルは、水平に設置したワイヤや防護網に対して、重錘を垂直落下させた場合のみに限ったモデルのみであり、実斜面に設置される防護網のような傾斜を有する場合については解析されていない。
そこで本研究では、実斜面を想定した傾きを持つ落石防護網の解析モデルを作成し、動的応答解析とエネルギー的に等価な静的解析法による、解析モデル中の緩衝金具の滑り量と防護網のたわみの評価について検討を行った。その結果、各緩衝金具内の滑り量の合計値及び防護網のたわみに関して、動的応答解析による解析結果の再現性が確認され、静的解析による評価を可能とした。しかし、緩衝金具ごとの滑り量のばらつきについては誤差が見られた。また、実際に施工される落石防護網を想定した規模と傾斜を有する解析モデルを作成し、静的解析により緩衝金具内の滑り量と防護網のたわみを算出し、その挙動を調査した。

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