近崇明

数値実験を用いた土工構造物の施工管理手法の評価と提案

大塚悟

建設工事では構造物の挙動が設計の想定通りにいくわけではない.危険側にでも安全側にでも設計者の想定外の挙動を見せることが多く,当初設計に大きな影響を及ぼすことも少なくない.これは設計と施工の間に介在する様々な不確実性によるものであり,そういった不確実性を考慮に入れて建設を進めていくためには,構造物の動態観測を行い,逐次変化する現場構造物に臨機応変に対応し,設計・施工法を変更していくような施工管理を行う必要がある.また,土工構造物のように地盤を相手にするものでは,地域によって異なる地盤の性質などの影響で,想定外の挙動を表しやすい.そのため,土工構造物においては既にいくつかの施工管理手法が提案されており,実用されているものもある.本研究では軟弱地盤上盛土の施工管理手法に着目した.様々な条件で数値実験を行い,既往の手法について評価を行ったうえで,新しい施工管理手法を提案することが本研究の目的である.
 既往の施工管理手法のうち,よく現場で用いられている手法には,松尾・川村方式,栗原・高橋方式,富永・橋本方式などがある.これらの手法においては盛土中央部沈下量,のり尻部側方変位量,およびそれらの時間変化量といった観測値が施工管理に用いられている.施工速度や盛土寸法など様々に条件を変えて解析を行い,各手法の評価を行ったところ,盛土中央部沈下量を管理に用いている手法では,盛土幅の異なる盛土の評価が適切にできていないという問題点が挙げられた.本研究では,盛土中央部沈下量に代わる計測値として,のり肩部沈下量を用いることを提案した.また,提案した手法は指摘した問題点が改善できており,また,松尾・川村方式の破壊規準線をそのまま適用することができる可能性を示した.
 本研究では盛土工を対象に観測的施工法の検討を実施したが,解析に用いた地盤のパラメータは新潟県柏崎市の粘土のみであったため十分な検討ができなかったといえる.今後は幅広い地盤条件について検討するする必要がある.また、盛土のような載荷問題だけでなく,切土斜面のような除荷問題についても同様の検討を行うことを今後の展望としている.

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