佐藤 大樹

当初線引き時の市街化区域と拡大した市街化区域の空間特性の差に関する研究

中出文平 樋口秀 松川寿也

我が国では、高度経済成長による急速な人口増加と大都市への人口集中を背景とした無秩序な市街化を抑制することを目的として、昭和43年に区域区分制度が導入された。本制度導入から40余年が経過した現在、経済の停滞や急速な少子高齢化の進行により開発圧力は低下した。しかし地方都市では、住民の価値観の変化やモータリゼーションの進展を要因とした市街地のスプロール化が依然として継続している。市街化区域の拡大は、都市基盤の拡張を伴い維持管理コストを増大させることから、人口減少下での持続可能な社会の実現への大きな課題となる。今後さらなる人口減少が予想され、コンパクトシティをはじめとした計画的な市街化の誘導や市街地縮退を行うこと、またその対象となる市街地候補を検討することが必要である。そこで本研究では、地方都市を対象に当初線引き時に市街化区域に設定された区域と拡大した市街化区域の市街地別に空間特性を比較して、市街化区域拡大の問題点・課題を検討することを目的としている。
本研究では、昭和50年までに区域区分制度を導入している地方都市(86都市)の市街化区域別の面積を測定し、当初線引き時の市街化区域の設定状況と当初線引き以降の市街化区域の拡大状況から類型化した。ここから、当初線引き以降に市街化区域を拡大した都市のうち「当初線引き時に市街化区域を広く設定した都市」と「狭く設定した都市」の市街地の質の差に着目して、特徴的な6都市を選定した。その後、資料収集と基盤整備状況の空間化、ヒアリング・現地調査をもって市街化区域拡大の問題点や市街地別の課題を明らかにしている。
「当初線引き時に市街化区域を広く設定した都市」では、過大に市街化区域を設定した都市が存在し、人口が定着しない地区や人口密度低下が顕著である地区が散見される。さらに、人口の急増を背景として、基盤整備が未担保な市街地が存在することが明らかとなった。「狭く設定した都市」では、既成市街地を中心として基盤整備が未担保な市街地を広く形成している。さらに、今後の整備手法に苦慮していることが明らかとなった。
本研究では、基盤整備が担保された市街地へ人口の計画的な誘導をするために、立地適正化計画を活用することや都市の実情に合わせた低・未利用地対策を実施することを提案している。また、基盤整備が未担保な市街地の人口の維持と整備をするために、市街地整序型の土地区画整理事業を施行すること、さらに円滑な事業の進行を促すために、地権者の協力体制を強化することが望まれる。

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